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みなさまと共に歩む…… (*個人的な感想です)

日本アクション純文学シリーズ7「大山椒魚対大河童」

「がおー!」
 夏の避暑地として賑わう湖畔の街に、突如として巨大な山椒魚が現れた。
「がおー!」
 すると、街からそう遠くない湖の中から巨大な河童が出現した。
 湖に面したお洒落な街並みを踏みつぶし、のし歩いていた大山椒魚は、大河童の咆哮に反応して振り返った。そのとき、大きな尻尾が高くそびえる高級リゾートホテルのタワー部分をなぎ倒した。
 大河童は大山椒魚の存在に気がつくと、両手で水を掻き分け、ざぶざぶと街に近づいてきた。大河童が立てた大きな波にもまれて、係留されていたボートが次々と沈んだ。
 湖底を歩いてきた大河童は、腰のあたりまで水上に姿を現した。すると大山椒魚は、尻尾と両足を使ってジャンプし、大河童に飛びかかった。
 大山椒魚は短い手足を広げ、大河童めがけてボディープレス。大河童は背後に倒れ、大山椒魚もろとも湖に没した。
 少しして、大河童と大山椒魚は上体を起こし、水面に上半身を表すと、今度は大河童が反撃に出た。大河童は水かきのある両手を使って、ばしゃばしゃと大山椒魚に水をかける。
 大山椒魚も負けずに、短い両手をぐるぐる回して大河童に水をかける。
 大河童を大山椒魚が追いかける。大山椒魚は短い両手を必死に動かして逃げる。二匹は輪になって浅瀬でばしゃばしゃと走り回る。
 そうかと思うと大山椒魚が大河童を追いかける。河童は深いところへ逃げると、大山椒魚は大きな尻尾を動かして泳いで追いかける。
 そんな繰り返しが続き、湖畔の街は水浸しになってしまった。しかし、それに構うことなく両者の激しい戦いは続いた。大山椒魚に水をかけられた大河童は、水がかからないよう片手で顔を覆いながら、もう片方の手で水を掻いては大山椒魚に水をかける。
「きゃー!」
「きゃははは」
 楽しそうな咆哮が響く。もしかしてこいつらは、戦っているのではなく、遊んでいるのか……?

 そのときだ、一台の戦車が水浸しの街に現れた。地球防衛隊だ。
 しかし、戦車は大砲を発射することなく、じっと大河童と大山椒魚の動きを伺っている。同時に二匹の巨大生物が出現して暴れ回るという、前代未聞の緊迫した状況を目の前にして、戦車の中ではこんな会話が交わされていた。
「たいちょー、お茶、ここ置きますね」
「うん」
 戦車内の座敷では、隊員と隊長が ちゃぶ台を挟んで番茶を飲んでいた。作戦会議だ。
「二匹もいたんじゃ、どっちを撃っていいかわかりませんね」
  ちゃぶ台に向かってあぐらをかいた隊員は、湯飲みを片手に持ち、後ろの茶箪笥に寄りかかっただらしない態勢で言った。
「そうだな」
 隊長は隊員の顔を見ずに、お茶を一口すすってから、うわのそらで答えた。
 作戦行動の前、隊長はいつも無口になる。作戦を考えているのだ。今度は二匹。かなり高度な技が要求される。
 隊長はもう一口、お茶をすすった。
 隊員は、それとなくハッチの方を見ると、開けたままにしていたハッチから、パラパラと雨が落ちてくるのが見えた。
「あ、降ってきたかな」
 隊員はゆっくりと腰を持ち上げ、ハッチを閉めた。
 やっぱり雨だ。湖のほうを見ると、それまで激しく動き回っていた大河童と大山椒魚は、慌てて岸に上がってきた。
 大河童は岸から少しあがったところの地面に、湖に向かって腰を下ろし、両手で膝を抱えた。
 大山椒魚はその脇に並んで、やはり湖に向かって横たわった。
 その様子を戦車の窓から見ていた隊員は言った。
「面白いもんですね。プールで雨が降ると、みんな上がってくるじゃないですか。水の中で泳いでいるのに、雨に濡れないように水から上がってくるって、おかしくないですか? だけど、なぜか雨が降るとプールに人がいなくなるんですよね。大河童と大山椒魚も、雨に気がつくと慌てて湖から上がってきましたよ。あいつらも同じなんですね」
 隊員は笑いながらそう言うと、元いた場所にあぐらをかいて冷めたお茶を飲み干した。
「今のうちに攻撃しちゃいましょうよ」
 隊員はそう持ちかけたが、隊長はあぐらをかいたまま、両手を後ろの床について天井を見上げ、ふんと鼻で息を吐いてから、隊員の顔を見ずに答えた。
「何もしてないんだろ?」
「ええ、雨が止むのを待ってるみたいです」
「じゃあ気の毒だ。無抵抗の相手を撃つのは気が引ける」
「それもそうですね」
 隊員は同意して、 ちゃぶ台の上の菓子鉢から柿の種を左手でひとつかみ取った。あぐらをかき、背中を丸めて両方の腕を ちゃぶ台にのせた姿勢で、手の中から、右手で柿の種をいくつか取り出し、肘をついたまま口に放り込む。カリカリと柿の種を噛む。
 また、握った手から柿の種をいつまみ出し、口に入れ、カリカリと噛んだ。
 戦車の中では、カリカリが続いていたが、あるとき隊員は左手を開き、握っていた柿の種を見た。やっぱりだ、ピーナッツがない。
「隊長、ピーナッツだけ食べたでしょ」
 座椅子にもたれかかり、何かを考え込むように目を閉じている隊長からは返事がない。そうだ、隊長は作戦を考えているのだ。こんな話で邪魔をしてはいけない。隊員は思った。
 そのとき、「んが」と鼻を鳴らす音がして、隊長の体がぴくりと動いた。
 隊長は目を開けて言った。
「あ、イビキかいてた?」
 寝てたみたいだ。
「いやー、自分のイビキでビックリして起きちゃうことって、あるよね」
 誰にともなく、照れ臭そうに言うと、隊長は上体を起こして菓子鉢の柿の種をひとつかみ取り、そのまま口に放り込んだ。
 しばらくカリカリと柿の種を噛んでいた隊長は、ちょっと眉を寄せた。
「おい、お前、ピーナッツだけ食べただろう」
 隊長からの意外な言葉に隊員は慌てた。
「えー! 食べてませんよー。それ隊長でしょう」
「そんなはずがあるか。無意識のうちに食ってんだよ、ピーナッツだけ」
 そう言うと隊長は、菓子鉢の柿の種を人差し指でかき混ぜて、ピーナッツを探したが、ひとつも残っていない。
「やっぱり」
「ええー、食べてませんから」
 まったく身に覚えがなく、濡れ衣を着せられた気分の隊員は、少し腹を立てた。
「じゃあ、最初からピーナッツの量が少なかったということか。どこの柿の種だ」
「蒲田の東急ストアで買ったやつですけど」と言いながら、隊員は座ったまま茶箪笥に手を伸ばし、いちばん上の小さな引き戸を開けて柿の種の袋を取り出した。
「ほら、いつものやつです」
 隊員は柿の種の袋をぽんと ちゃぶ台に置いた。
 隊長はそれを手に取り、眉間にしわを寄せてやや顔を上げ、遠近両用メガネの下の方を通して袋の裏書きの細かい文字を読みながら言った。
「柿の種とピーナッツは五対五が理想なんだ。ピーナッツが少ないなんて、おかしいじゃないか」
 五対五って……、『そりゃなくなるよ!』と隊員は心の中で叫んだ。柿の種とピーナッツの比率は、大抵、柿の種のほうが多い。今は柿の種とピーナッツは六四が黄金比とされ、メーカーもそのあたりの配合にしている。だから五対五で食べ続ければ、ピーナッツが先になくなるのは当然だ。
 犯人は隊長じゃないかー、と隊員は思ったが、口には出さなかった。言ってはいけない。そんな雰囲気が隊長にはあった。隊長が怖いからではない。むしろ、隊長には傷つきやすい雰囲気があった。傷つきやすいであろうと思わせる雰囲気があるだけであって、実際に傷つきやすいかはわからない。それは隊員が勝手に感じているものであったのだが、そう感じさせる何かが隊長にはあった。 
「苦情係に電話してみるか」
「いや、そこまでしなくても」
 隊員は慌てた。柿の種とピーナッツは五対五で入っているものと思い込んでいるのは隊長のほうで、メーカーは何も悪くない。それなのに苦情の電話なんて入れたら、恥をかくのは隊長だ。そんなことを隊長にはさせられない。
「お前、電話してみろ」と隊長が言った。
「自分っすか?」
 隊員はすっとんきょうな声をあげた。
「えー、そんな、隊長が電話してくださいよー」
「うーん、知らない人に電話するのは苦手なんだよね」
「でも、苦情があるのは隊長でしょ。自分はまったく文句ないんですから。誰かの代わりにケンカするみたいなの、いやですよ」
「ケンカしろとは言ってない。苦情を伝えてほしいだけだ。じゃあ、私が電話をかけるから、かかったら、あとは替わってくれ」
「おんなじですよ」と隊員が言っている間に、隊長はもう自分の携帯電話に番号を打ち込んでいる。
「ほらかかった!」と隊長は、時限爆弾でも渡すように、携帯電話を隊員に放り投げた。
 隊員は慌てて携帯電話を拾い上げ、耳に当てた。
『お電話ありがとうございます。鶴山製菓お客様係担当の米田でございます』
 感じのいい女性の担当者が出た。
「あ、すいません。あのじつは、柿の種のことで、ちょっとおうかがいしたいのですけど」
『はい、どのようなことでしょうか』と担当者が言うのと当時に、隊長が「おうかがいじゃなくて、苦情だぞ苦情」と小声で口を挟んだ。
「あ、はい?」
 両方の耳にからそれぞれ違う人間の話を同時に聞かされたので、隊員はすっかり混乱してしまった。
『私どもの柿の種に何かございましたでしょうか』と担当者が聞き返すのと同時に、隊長が「ピーナッツの量が少ないと言え」と言った。
 たまらず隊員は、電話のマイクを手で覆い、隊長に向かって「ちょっと黙ってて」とほとんど声を出さずに、その代わりわざと大きく口を開けて言った。
 隊員はすぐにまた電話を耳に当てた。
「あの、柿の種はとてもおいしくて、いつも愛用させてもらってるんですけど」
『それは、いつもありがとうございます』と担当者。するとまた隊長が同時に「下手に出ると舐められるぞ」と言った。
 隊員は隊長の声を聞かないようにして話を進めた。
「あの、柿の種とピーナッツの配分なんですけど、ピーナッツがちょっと少ないような……」
『はい、当社ではお客様のご意見をもとに』
「おいおい、ちょっととはどういうことだ」
『柿の種とピーナッツの適正な割合を求めておりまして』
「五対五じゃないといけないんだ、そこをハッキリ言え」
『現在は柿の種六に対しましてピーナッツ四の割合でご提供しております』
「お前のところでは厳格に五対五の割合を守っていないのかと問い詰めろ」
 苦情係の担当者の話が右の耳から、隊長の話が左の耳から同時に聞こえる。何を聞いているのかわからなくなり、「ええ、はいはい」と隊員はやっと答える。
『もちろん、それですべてのお客様にご満足いただけないことは、承知しています」
「甘い甘い、不良品を掴ませやがって、ピーナッツが足りない分、金を返せと言え」
 担当者の一言一句に隊長の言葉がかぶる。隊長がモンスタークレーマーのようになってきた。
「はい、そうですね」と答えるのが隊員にはやっとだった。
『ピーナッツが少ないというご不満ですが、そうしたご意見にも添えるよう、今後とも精進して参ります』
「甘い顔してりゃつけあがりやがって、お前じゃ話にならないから、もっと上の人間を出せと言ってやれ」
 誰もつけあがってなんかいない。隊長には担当者の声は聞こえていない。勝手に妄想を膨らませて怒っている。
「あ、はい。今後ともよろしくお願いします。頑張ってください」と、隊員はなんだかよくわからない挨拶をして電話を切ると、携帯電話を ちゃぶ台の中央に叩きつけるようにして置き、隊長を睨み付けた。
「わかんないですよ! 電話中に横からあれこれ言われても。あっちも話してるし。なんのために電話したのか、ぜんぜんわかんないですから」
 興奮する隊員に、隊長は小さく言った。
「だから、もっとガツンと言ってやればよかったのに」
「ガツンとかなんとか、そういう話じゃないし。だいたいピーナッツの数は……」
 そこまで言いかけて、隊員は口をつぐんだ。隊長が隊員の剣幕に押されて、少したじろいだように見えたからだ。ビックリしたモグラのような顔をしている。
「外の様子を見てきます」
 隊員は深く息を吐いて立ち上がり、ハシゴを登ってハッチを開いた。
 雨はまだ降っていた。 
「あれー?」
 隊員は周囲を見回した。そして、ハシゴに登ったまま頭をハッチの中に入れて、隊長に向かって大きな声で言った。
「二匹ともいなくなっちゃいました!」
 隊員はハッチを閉めてハシゴを下り、あらためて隊長に報告した。
「どっか行っちゃいました」
「あら、そうなの」
 隊長は少し考えて言った。
「たぶん、雨が止まないから、諦めて帰ったんだな」
「なーんか、緊張の糸が切れちゃいましたね」
「まあ、とくに被害がなくてよかった」
「そうですね」
「帰るか」
「はい」
 隊員は操縦席に向かった。
 隊長は、菓子鉢に残った柿の種を掴んで口に入れた。カリカリという音が、操縦席に座った隊員の耳に届いた。
「あれ、隊長、ピーナッツの入ってない柿の種でも食べるんですか」
「ん? ああ。ピーナッツなしでもうまいな」
 じゃあ、さっきのアレはなんだったんだ、と隊員は思ったが、それは自分の胸に納めておくことにした。これでいい。今日も一件落着だ。
 隊員はそう自分に言い聞かせ、戦車のアクセルを踏んだ。

おしまい




  
 



  


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金井哲夫の編集日記 「お義父さんはパラリンピックで銅を狙う」

お義父さん射撃
 お義父さんは外資系の大手メーカーに定年まで勤めていたので、英語が得意だ。のぶちゃんの家では、よくアメリカ人のお偉いさんを招いてディナーをしていたそうな。そんなお義父さんは、数年前、突然、「英語教室を開くからビラを撒いてくれ」と言い出した。聞けば、小学校で英語教育が始まるから、小学生向けに英語教室を開くというのだ。開くったって、どこで? マンションは狭いし、場所を借りるもの大変だ。そういうことは、あまり考えてない。
どうしたら英語教室が開けるのか、ボクはちょっと本気で考えていたのだけど、それをのぶちゃんは一蹴した。
「八十過ぎのじいさんに英語を習おうなんて子どもはいないわよ!」
 たしかに、そこは微妙だ。お義父さんはそう言われて、「え、なんで?」みたいな、きょとんとした顔をしていたのだけど、なんだかのぶちゃんの剣幕に押されて、英語教室の話はしなくなった。
 それから少しして、東京オリンピックの開催が決まると、「ボランティアの通訳をやる」と言い出した。これを聞いたのぶちゃんは、「誰が現場に連れて行くのよ? 歩行器のじいさんの通訳なんて、誰も頼みたくないわよ!」とこれまた一蹴。一人で東京の街に出すわけにはいかないので、当然、誰か(おもにのぶちゃん)が付き添うことになる。介護者付き添いの歩行器の通訳というのは、使うほうも使い辛いだろう。というわけで、これも消えた。
 するとその後すぐに、お義父さんはなんと「パラリンピックに出る」と言い出した。アーチェリーで出場するというのだ。「アーチェリーなんて、やったことあるの?」とのぶちゃんが聞くと、「昔やって心得はある」と答えた。たぶん一回アーチェリー場に行ったことがある程度だと想像する。お義父さんの口からアーチェリーの話を聞いたことは一度もないし、アーチェリーが好きだという話も聞いたことがない。のぶちゃんと結婚して30年以上になるけど、その間、お義父さんがアーチェリーに行った試しはない。「心得がある」程度でパラリンピックに出られると思うその超絶的な自己肯定感は、ほんのちょっとだけでも分けて欲しいぐらいだ。
 しかし少し時間が経つと、今度は「射撃で出る」と言い出した。アーチェリーは諦めたようだ。「射撃なんてやったことないでしょ! だいいち鉄砲も持ってないし」とのぶちゃんが喰ってかかると、お義父さんは平然と「やったことがある」と答えた。「ほら、葉山の海水浴場でよくやったじゃないか」と。海の家の射的か! あれとパラリンピックの射撃を一緒にしている。
 でもどうして射撃なのかと、のぶちゃんが問いただすと、「あれなら座ってできるからだ」とのこと。さらに、「私は90歳なんで、多めに見てもらえると思うんですよ。まあ、金は無理だけど、銅ぐらいなら取れると思います」って、なんだかパラリンピックをデイサービスのお祭り程度にしか考えてないようだ。
 だいたい、パラリンピックの選手って、障害があるぶん、オリンピック選手よりも凄いわけで、そこをどうも勘違いしている。パラリンピックを舐めきっている。
 普通の人なら、冗談だと思うだろう。だが、お義父さんは冗談を言わない人だ。いつも温和でニコニコしているのだけど、お義父さんが冗談を言ったのを聞いたことがない。定期的に様子を見にやってくるケアマネージャーにもパラリンピックの話をしたらしく、ケアマネージャーも「どうも本気みたいです」と話していた。
 のぶちゃんに怒られるのが嫌なのか、最近はもう言わなくなった。でも、次に何をやると言い出すのか、ボクはとても楽しみにしている。

金井哲夫の編集日記「お義父さんの腸捻転」

編集日記お義父さんのソーセージパン
お義父さん、つまりのぶちゃんの父親の仰天エピソードは日常的に更新されているのだけど、もう90歳だし、幸い痴呆症はないものの、あまり笑い者にするのは気の毒かと思って控えていたのだけど、もう我慢できない。書く。

お義父さんは、日中、マンションに一人でいることが多いので、訪問看護師をが定期的に様子を見に来てくれることになっている。ある日、その看護師さんから職場にいる女房に連絡が入った。ここから尾籠な話になるのでご注意ください。
お義父さんのお通じがしばらくないとのこと。摘便をしても出てこないから、看護師さんは大変に心配になったみたいだ。その前に、お義父さんは腸捻転を起こして緊急入院した経緯がある。
そのとき判明したのだけど、お義父さんはS字結腸が普通の人よりもずっと長く、便が溜まりやすいのだそうだ。便が一杯になると腸がよじれてしまう。腸捻転だ。そうなった場合は手術をしなければならず、命に関わる。
だから今回もそれを疑って、看護師さんは連絡をくれたのだ。聞けば数日間出ていないという。その連絡を受けたのぶちゃんは、仕事を抜け出すわけにいかず、ボクに連絡してきた。救急車で病院に連れて行ってくれとのこと。
お義父さんのマンションに駆けつけると、看護師さんがボクを待っていてくれた。事情を聞いていると、お義父さんは「昨日の昼に食べたソーセージパンがいけなかったみたいだ」と口を挟んできた。そのせいでお腹を壊したのだと思い込んでいる。お義父さんは、一度思い込むと、もう絶対に他の意見を受け付けない。何日間もお通じがなくて、周囲の人間が騒いでいるのだけど、ソーセージパンと決めてしまったらもう動かさない。
やがて救急隊員が来た。腸捻転の疑いがあることをボクが話していると、「あのね、昨日の昼に食べたソーセージパンがいけなかったらしいんですよ」と横から救急隊員に言う。こういうときのお義父さんは、切迫した様子ではなく、にこやかに、なぜか嬉しそうに話す。人の話を聞かないという面倒な性格ではあるけど、この不思議な朗らかさで、なんとか周囲との人間関係を保っているようだ。のぶちゃんは「首を絞めてやりたい」といつも怒ってるけど。
日本の救急隊員って、ものすごく優しいんだね。お義父さんの話をいっしょうけんめい傾聴してくれる。だからお義父さんは得意になって何度も「ソーセージパン」を連発する。そうじゃないって言ってるのに。
病院に到着し、ストレッチャーに乗ったまま救急室で待っている間もソーセージパンの話をしていた。看護師さんが来て、まずはレントゲンを撮りますからとお義父さんを迎えに来た。新しい人が来ると、その都度かならずソーセージパンの件を伝える。しかし今回は、それに加えて「私のS字結腸は普通の人より長いんですよ、ふふふ」と看護師に話していた。何が嬉しいのだろうか。なんだか自慢してる。
検査が終わって先生に呼ばれて、結果を聞いている間も、お義父さんはしきりにソーセージパンの話をする。先生は「ああ、はいはい」と聞き流し、ボクに向き直ってあれこれ説明をしてくれた。腸捻転一歩手前で緊急入院。
病室に移動するころ、ようやくのぶちゃんが駆けつけてきた。そして、のぶちゃんの顔を見ると、お義父さんはソーセージパンだと話した。
実の娘は、優しく傾聴したり聞き流したりはしてくれない。ガーガー怒る。本気で心配してるからだね。お義父さんは、わからんちんなことを言うと、いつものぶちゃんにガーガー怒られるのだけど、そうなると「何が悪いの?」みたいな、「え、なにそれ、意外」みたいな顔になる。そして、あまり反論はせず、「ふん」と言って黙ってしまう。他人の話には絶対に納得しないのがお義父さんだ。
軽症だったので、一週間も経たないうちに退院できた。でもきっとまだ、ソーセージパンだと思ってるに違いない。

おしまい

金井哲夫の編集日記 カーナビくんのお気遣い

編集日記カーナビ
 正月明けに亡くなった義母の納骨をした。お墓は、義父のもともとの実家があった新橋に近い麻布の善福寺という大きなお寺にある。納骨を終えて、長女夫婦は彼らの車に次女を乗せて別行動で帰ることになり、我々は義父、義弟、女房を乗せて横浜の家まで帰ることになった。

 しかし、ウチの車のカーナビは古く、最近の道を知らない。まあ、あのあたりはカーナビなんて使わなくても帰れるのだけど、目の前にカーナビがあれば、ついカーナビに頼ってしまう。自宅に帰るコマンドをワンクリック。さて帰ろうと車を出すと、あれれ、逆方向だ。そうだった。昔かたぎのカーナビは麻布から六本木ヒルズの脇を通って六本木通りに出る道を知らなかったのだ。

 ぐるっと六本木のほうを回って帰るのかと思いきや、カーナビは麻布十番で右に曲がれという。これまた反対だ。車はどんどん家から遠くなる。

 ついに赤羽橋の交差点に出た。反対側の車線なら首都高芝公園の入口が使えたのだけど、こっちからは入れない。たぶんカーナビは、ぐるっとまわってそこから首都高に入ろうってツモリだなと考えた。

 しかし、東京タワーの脇をとおり、細い道を通って芝高校の脇に出た。芝高校は義父の出身校だ。そこから神谷町に出た。義父が前に住んでいたところ、つまり女房の実家は神谷町の愛宕山の脇のマンションにあった。そのすぐ近くを通って虎ノ門の金比羅様の脇を通る。

 ここはボクが子ども時代を過ごした場所でもある。女房とは区立小学校の学区が微妙に違っていたのだけど、中学で一緒になった。だから、非常に懐かしい場所だ。

 結局、車は霞ヶ関に抜けて、ようやく首都高に入ることができた。カーナビの言うことを聞かずに、あのまま知ってる道を行けば、すぐに六本木通りに出て家に帰れたのに、とんだ遠回りをしてしまった。

 そういえば、女房と結婚したてか、する直前か、亡くなった義母、義父、義弟と女房を車に乗せて、どこかへ行った帰り、下りるはずの首都高の芝公園出口を通り過ぎてしまったことがあった。たしか汐留かどっかで下りて、料金所のおじさんに「下りるところを間違えた」と告げてUターンさせてもらった。あの後、義母はことあるごとにその話をしていた。「あらー、東京タワーが遠くなってくわーって思ってたのよ」と、いつも思い出しては笑ってた。それ以来、ボクは道に迷うものとお義母さんは信じていた。

 車には、お義母さんはいないが、義父と義弟と女房と、あのときと同じメンバーが乗っている。そして、ボクたちの思い出の街をぐるっと回って帰って来た。お義母さんは、きっと笑ってるに違いない。
 
 後日、お義父さんが外を見て嬉しそうにしてたよ、と義弟が礼を言ってくれた。後ろで静かに寝ているのかと思ったが、景色を見て懐かしんでくれていたようだ。どうも、あの逆へ行け行けという奇妙な指示は、カーナビくんが気を利かせてくれたのかもしれない。

おしまい

金井哲夫の編集日記 シーフードスパゲッティー

シーフード
 ちょっと家族で遠出をした帰り、高速道路のサービスエリアで夕食をとることにした。その土地の名物メニューなんかあるのかなと期待したけど、サービスエリアのレストランは全国共通のようで、東京のファミレスとほぼ変わらない品揃えに、ちょいとがっかりした。

 お目当てにしていた、その土地ならではの料理がないとなると、迷う。カツカレーか、スパゲッティーか、中華定食か。ああ、郷土料理のお腹になっていたから、こういう平凡なものには食指が動かない。仕方がないので、メニューの写真からいちばん見栄えがいいシーフードスパゲッティーを頼むことにした。

 しばらく待つと、シーフードスパゲッティーが運ばれてきた。連休最後の日の夕方ということもあってか、おそらくいつもはガラガラのレストランがいつになく混雑して、このパーキングエリアの近くに住むパートタイムの(たぶん)ピンクの似合わない制服を着たウエイトレスのおばさんもビックリして地に足が付いていない様子だった。
 
 わさわさと出されたそのスパゲッティーだが、なんか変だ。写真と違う。メニューの写真では、エビやらイカやら貝やら、魚介類が美しく盛られていた。それを見て注文したのだけど、実際のスパゲッティーの上には何も載っかっていない。緑色のイタリアンパセリだけが、ちょこんと添えられている。
 
食べてみるとシーフードスパゲッティーの味がする。でもそれは、レトルトのシーフードスパゲッティーソースをかけただけのスパゲッティーと変わらない。というか、ソースをかけただけのスパゲッティーそのものだ。味はするけど具なしだ。
 
 具を載せるのを忘れたのか? と疑ってみたけど、イタリアンパセリがスパゲッティーのてっぺんに載っかっていた。あれは最後の仕上げにちょいと飾るものだろうから、それが載っているということは、この料理は仕上がっているのだ。それにしても、写真と違いすぎる。そういうものなのか、と思いつつスパゲッティーを食べ店を出たのだけど、いつまでも釈然としない。
あれは具を載せ忘れたのか、ああいうものなのか。イタリアンパセリが載っていたのだから、やっぱりああいうものなのだろうが、写真と違いすぎる。高速道路に車を走らせるボクの頭の中では、赤いエビの頭がぐるぐると踊っている。

 もしかしたらそのころ、あのレストランの厨房では、こんなことになっていたかも知れない。
調理台の上に、ステンレスの皿に載せられたエビやらイカやら貝やらのシーフードが置かれている。料理長がそれに気づき、「おい、これはなんだ?」と近くのコックに尋ねる。
「シーフードスパゲッティーの具です」とコックは答える。
「それはわかっているが、どうしてここに置いてあるんだ?」と料理長。
すると、若い別のコックがハッとして、包丁でカツカレーのカツを切っていた手を止めて「そ、それ、スパゲッティーに載せるの忘れました!」と告白する。
「具を載せずにお客様にお出ししたのか?」と料理長が驚いて問いただす。
「す、す、すみません!」と若いコックは小さくなる。
その騒ぎを聞きつけて、安物のタキシードを着た支配人が厨房に入ってきて、「具なしのシーフードスパゲッティーをお客様にお出ししたって、まさか……」と青い顔になる。
「これを出したのは誰だ?」と支配人は周囲に向かって大声を出す。
すると、客の注文と配膳に追われてアップアップしていた近所に住むパートタイムのピンクの似合わない制服のウエイトレスのおばさんが、厨房のカウンターの前ではたと立ち止まる。
「それ、私です! ああ、なんていうことを……! 私の責任です。すぐにあのお客さまを追いかけて、平に謝って、こちらに戻っていただいて、具を……」
「キミのママチャリでは追いつかないよ! それに高速道路だ。どこのお客様かもわからないのだぞ!」
「オレの責任です。オレがついイタリアンパセリを載せてしまったために……。ああ! なんてことを!」
 若いコックは手に持った包丁を自分の胸に向けた。
「やめるんだ! キミが死んでも、もう取り返しがつかない。すべては支配人である私の責任だ。一生かけてでも、そのお客様を探し出して、地面に顔を擦り付けて土下座して、具を……」
支配には目に涙を浮かべ、その場に両膝をついてうなだれる。
「あれは……、日曜日の昼だったかな。私がまだ小学生のころ、両親が運転する車で、郊外のドライブインに入って昼食を取ることにしたんだよ。ちょっとお洒落な店でね。うちの生活レベルはよく知ってたから、こんな高級な店に入っちゃって、お父さんは大丈夫なのかと子どもながらに心配して、ドキドキしたのを憶えてる。テーブルに通されて、大きなメニューを広げると、色とりどりの料理の写真が並んでいた。母は、なんでも好きなものを頼んでいいわよ、と言ってくれた。何かいいことがあったのだろう。それなら遠慮なく、と私はステーキを頼もうと思ったのだが、ちょっとページをめくると、そこにはシーフードスパゲッティーの写真があった。赤い大きなエビの頭が目を引いた。イカや貝や、いろんな具材が載っている。私はそれに決めた。母は、えー、そんなのでいいの? と何度も聞いてくれたが、もうそれしか考えられなかった。運ばれてきたお皿は、想像よりも大きくて、あの写真のとおりの赤い大きなエビの頭も載っかっていた。窓の外のキラキラした日差し。店内に流れる静かな音楽。父と母の幸せそうな笑顔。私はそこで最高の時間を過ごした。だから、シーフードスパゲッティーには、特別な思いがあるんだよ」

 支配人は、ひざまづいたまま、そこまで一気に話すと、涙で濡れた顔をみんなに向けた。その顔には、さっきまでの怒りと絶望の色はなく、幸せそうな笑顔になっていた。

「たしかに、平凡なメニューだ。こんな山の中でシーフードなんて、変だと思うかも知れない。でもね、私にとって、それはこの店のシンボルでもあるんだ。あのときの幸せな気持ちを、少しでもお客様に分けて差し上げたい。ここで食事をしたことが、子どもたちの思い出になって欲しい。フードコートで食券を買ってラーメンを啜っている人たちを横目にレストランに入る、そのお客様の優越感に応えられる最高のおもてなしをしなければいけない。だからね、どんなに忙しくても、手を抜いちゃいけないよ。イタリアンパセリを載せるときは、具をダブルチェック。指差し確認だ。いいね?」
若いコックもウエイトレスも料理長も、みな立ったままうなづいた。若いコックは白いコック帽をひっ掴み、涙を拭いた。

「もしまた、あのお客様がこの店にいらして、再びシーフードスパゲッティーを注文されたら、具をダブルにして、みんなで誠心誠意、謝罪しよう」

 なんて話をしたかどうかは、わからない。ただ言えることは、あのレストランに再びよんどころなく入ったとしても、シーフードスパゲッティーだけは絶対に注文しない。カツカレーだな。カツカレーなら、カツが載ってなかったとき、絶対におかしいって確信できるから。

おしまい



本当の「雪女」 Google翻訳編

雪女

Patrick Lafcadio Hearn 作 / Google 翻訳
モサクとミノキチ 

武蔵野の村には、モサクとミノキチの2つの木工師がいました。私が話している時、モサクは老人でした。彼の弟子であるミノキチは18歳の若さでした。毎日彼らは村から約5マイル離れた森に集まった。その森への道のりには広い川があります。フェリーボートがあります。フェリーがあるところに数回橋が建設されました。しかし、橋は毎回洪水によって持ち去られました。川が上がったときに、そこに流れ込む電流に抵抗することのできる共通の橋はありません。

モスクとミノキチは帰宅途中だった。非常に寒い夕方、大きな吹雪がそれらを追い越した。彼らはフェリーに到着した。ボートマンが川の向こう側にボートを残していたことが分かった。それは泳ぐ日ではなかった。ウッドカッター達はフェリーマンの小屋で避難所を取った。小屋に火鉢はなく、火をつける場所もありませんでした。それは1つの扉があり、窓はない2畳の小屋でした。モサクとミノキイチはドアを締めて、その上に藁の雨の上に乗って休息した。最初は彼らはとても冷たく感じませんでした。彼らはすぐに嵐が終わると思った。

老人はすぐに眠りに落ちた。少年ミノキチは長い時間目を覚まし、ひどい風に耳を傾け、雪をドアに絶えず叩きつけていた。川は轟音であった。小屋は揺れて海の迷路のように鳴り響きました。それはひどい嵐だった。空気は一瞬一層寒くなりました。ミノキチはレインコートの下で震えました。しかし、ついには、寒さにもかかわらず、彼はあまりにも眠りについた。

彼は顔に雪が降りて目が覚めた。小屋の扉は強制的に開放されていた。そして、雪光(ゆきかかり)によって、彼は部屋の女性を見ました - 白人の女性。彼女はモサクの上で曲がっていて、彼女に息を吹きかけていた。そして彼女の息は明るい白い煙のようだった。ほぼ同じ瞬間に、彼女はミノキチに向かい、彼をひっくり返した。彼は叫んだりしようとしましたが、何の音も出せないことがわかりました。白い女性は、彼の顔が彼にほとんど触れるまで、彼の上を下ったり下ったりした。彼は目が彼を恐れさせたが、彼女はとても美しいと思った。彼女は笑って、笑って、「他の人と同じように扱いたいと思っていたが、若い頃、あなたに同情を感じるのを助けることはできない。あなたはかわいい男の子、Minokichiです。今はあなたを傷つけません。しかし、もしあなたが今夜あなたが見たことについて誰か、つまり自分の母親まで言えば、私はそれを知るでしょう。それから私はあなたを殺すだろう...私の言うことを忘れないで! "

これらの言葉で、彼女は彼から向かい、出入り口を通りました。それから彼は自分自身を動かすことができた。彼は立ち上がり、見た。しかし、女性はどこにも見えませんでした。雪が小屋に激しく吹き込んでいた。ミノキチはドアを閉め、数枚の木材をそれに固定して固定した。彼は風が開いているかどうか疑問に思った;彼は唯一の夢を見ていたかもしれないと思って、白い女性の人形のための玄関の雪の光の煌きを間違えたかもしれないが、彼は確信することができませんでした。彼はモサクに電話し、老人が答えなかったのでびっくりした。彼は暗闇の中で手を出し、モサクの顔に触れ、それが氷であることを発見した!モサクはスタークで死んでいた...

夜明けの嵐は終わった。その日の少し後に、駅に戻ったとき、彼はミノキチがモザクの凍った体のそばに無意識のうちに横たわっていることを発見した。 Minokichiはすぐに世話をされ、すぐに自分自身に来た。その恐ろしい夜の寒さの影響から、彼は長い間病気のままでした。彼は老人の死によっても大きく怯えていた。彼は白人女性のビジョンについては何も言わなかった。彼が再びうまくやって来るとすぐに、彼は毎朝森に行き、夕暮れ時に彼の母親が販売するのを助けた木製の束で戻ってくる彼の呼び出しに戻りました。

ある晩、翌年の冬に、家に帰る途中で、同じ道を旅していた少女を追い抜いた。彼女は背の高い、スリムな女の子、非常に格好良かったです。彼女は鳴き声の声のように声を響きながら、箕木斉の挨拶に耳を傾けて答えた。それから彼は彼女のそばを歩いた。彼らは話を始めた。女の子は彼女の名前はO-Yukiだったと言った。彼女は最近、両親を失いました。彼女はええに行くことになっていました。彼女は何らかの貧しい関係を経験したことがあり、彼女は奴隷としての状況を見つけるのを助けるかもしれません。

ミノキチはすぐにこの奇妙な女の子に魅了された。そして彼が彼女を見た以上に、彼女はハンマーと思われた。彼は彼女にまだ婚約しているかどうか尋ねた。彼女は笑いながら、彼女は自由であると答えました。そして、彼女は自分の順番で、ミノキチに、結婚しているのか、結婚するのかを尋ねました。彼は、彼女には、未亡人の母親しかいなかったが、 "尊敬される義理の義理"の質問は、まだ若い頃から考慮されていなかったと語った。これらの信頼の後、彼らは話すことなく長い間歩いた。しかし、諺が示すように、キ・ガ・アッバ、私はモク・クーディ・ホドニ・モノウォー・イウ:「希望があれば、目は口のように言える。彼らが村に到着するまでに、彼らはお互いにとても喜んでいました。ミノキッチはおゆうきさんにしばらく家に帰るように頼んだ。いくつかの恥ずかしがり屋の後、彼女は彼と共にそこに行った。彼の母親は彼女を歓迎し、彼女のために暖かい食事を用意しました。おじいちゃんはあまりにもうまく行動していたので、ミノキチさんの母親は突然彼女に気に入って、彼女にイエローの旅を遅らせるよう説得しました。そして、問題の自然な終わりは、ユキは決してええに全く行きませんでした。

彼女は「名誉ある義理の嫁」として家に残った。 O-Yukiは非常に良い義理の義理を証明しました。ミノキチの母親が死にました - 5年後、最後の言葉は息子の妻のために愛情と賛美の言葉でした。そして、O-Yukiは10人の子供、少年少女、それらのすべての子供たち、そして非常に公平な皮膚を持っています。

田舎の人は、O-Yukiは本質的に素晴らしい人物だと思っていました。農民女性の大半は早く年を取る。 O-Yukiは、10人の子供の母親になってからも、村に初めて来た日のように若くて新鮮なものでした。ある夜、子どもが眠った後、おゆきは紙のランプの光で縫い合わせていた。とミノキチは、彼女を見て、言った: -

「あなたがそこに縫うのを見るためには、あなたの顔に光を当てて、私が18歳の若者の時に起こった奇妙なことを考えさせてください。あなた...」彼女の仕事から目を離さずに、O-Yukiは答えました。「彼女について教えてください...どこに彼女を見ましたか?それから、ミノキチは、フェリーマンの小屋と、彼の上に腰をかがめていた白い婦人の笑い声と囁き声、そして老いたモサクの沈黙の死について、彼女に語った。そして、彼は言った:

「眠っているか目が覚めている、それは私があなたのように美しいと思った唯一の時間でした。もちろん、彼女は人間ではなく、私は彼女を恐れていた、非常に恐れていましたが、彼女はとても白でした!私が見た夢なのか、雪の女なのかは決して確かではありませんでした」「おゆうきは縫い物を下ろして起き上がり、ミノキチの上を歩いて座って叫んだ彼の顔に -

「それは私なんだよ!雪だよ!そして、もしあなたがそれについて話したら、私はあなたを殺すだろうと言ったんだけど...でも、そこに眠っている子供たちは、この瞬間にあなたを殺すだろう!今あなたは彼らのことをとてもうまくやっているほうがいいと思うのですが、これまでにあなたに不平を言う理由があれば、私はあなたにふさわしいようにあなたを扱います!」...彼女が叫んだとしても、彼女の声は、彼女は屋根の梁に溶け込んだ明るい白い霧の中に溶けて、煙の中を震え去りました。もう一度彼女は見られませんでした。


解説


これまでにいろいろな人が翻訳している小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談』だが、現代の技術の結晶である機械翻訳の中でも、もっとも進歩したGoogle翻訳であらためて訳してみると、昔の訳者では気が付かなかった原文の本当の意味が浮き彫りにされる。
モサクとミノキチは、フェリーボードに乗って帰ろうとしていた。江戸時代の話だと思われていたが、どうも違うらしい。また、ミノキチはフェリーマンの小屋で恐ろしい体験をして、急いでモサクに電話をかけているが、二畳ほどの小さな部屋にいる相手にかけるということは、携帯電話が普及していたことを示している。
また、他の訳では、O-Yukiは江戸に向かう途中だったとされているが、今回の翻訳でO-Yukiが白人女性であることがわかり、また行き先もイエローの街ということも判明した。つまり、時代どころか、舞台となった世界も日本ではないようだ。
最後にO-Yukiは「それは私なんだよ!雪だよ!そして、もしあなたがそれについて話したら、私はあなたを殺すだろうと言ったんだけど...」と語気が変化したと思えば、その後は何を話しているのかわからない。やっぱりO-Yukiは外人だったのだ。
それは別として、肝心な結末部分で、主人公のひとりであるO-Yukiが何を言ってるのかわからないので、物語として、何が言いたかったのか、ぜんぜんわからない。釈然としない。なんだこれ? である。小泉八雲、どうかしてるぞ。

中川社長のショートストーリー『病床六万尺』③

社長1 がーーーーんんん!と映画やドラマだったら、ピアノの一番上から一番下までの鍵を使ってフォルテシモで思いっきり響かせる所だが、そういうことはなかった。目の前が真っ白にも真っ黒にも真っ青にもピンク色にもならなかった。
 走馬灯が頭のまわりでパカパカ走り回るという事もなく、人生の初めから終わりまでの場面が一瞬のうちに甦るという事もなく、雲がふたつに割れてそのあいだから天使がラッパを吹きながら舞い降りてくるという事もなく、西方浄土から阿弥陀様ご一行が押し寄せるという事もなかった。(みなさん、あんなの嘘っぱちでっせ) それまでの光景がそれまでのように、どうってことなく、のんべんだらりと続いているだけである。「死」ということも頭に浮かんだが、
「まあ、そういうこともあるだろうねえ」
と思っただけだった。べつに悟っているわけではない。まあ、そういうものなんだ、としか言いようがない。
 たいていの人は、離れがたい家族があったり、どうしてもやり遂げたい仕事があったりするんだろうが、私の場合、幸か不幸か、そういうものもない。甚だ手離れがいいのである。なんか、あっけないのである。
 恐くないわけではないが、そうなったらそうなったで仕方がないという気がするのである。
 なんとなく、入院以来今日まで頭がボーッとしている。ただでさえ、はっきりしていない頭なのであるが、この「ぼー」があるいは、ショックアブソーバの役割をしているのかもなあ、と思ったりもする。やはり、それなりにショックを受けてるのかねえ。この辺、自分でもよくわからない。ショック、というより、しょつくぅ~、といった程度であろうか。
 それから、1,2日放っておかれたような気がする。もしかすると、胃カメラの前だったかもしれない。断食していた日もあった。
 いやいや、そんなはずないか。胃カメラもやらずに宣告して置いて、あとから、「ごめん、ごめん、さっきのウソ」というのもおかしい。普通に宣告するより数倍意地悪である。この辺、周辺の人の方がよくわかっているかもしれない。

中川社長のショートストーリー『病床六万尺』その2

病床2 第一回から、ずいぶんと間が空いてしまった。この間、一部のひとの御期待には反することになるが、死んでしまったわけではない。さらに、先ほどまで死んでいたが、今、生き返ったという、荒技を見せたわけではない。
病人といえど忙しいのだ。ごろごろしたり、のらくらしたり、うだうだしたりと、息つく暇もない。
いや、筋肉が落ちてしまっているせいか、実際、なんと言うこともない用事をするにもエラくくたびれるのだ。なにか一つやっては、横たわってしばし休息しなければならない。そして、この「しばし」は伸縮自在であってぐっすり眠り込むことまで含まれる。
そんなこんなで、「世界一忙しい男」として、過ごしいていたのである。

そうそう、そう言っている私はこれを書いている時点では、すでに自宅で抗がん剤治療を開始しているのであった。一方、文章の方は(ここでようやく第一回のつづき)
急遽、有無を言わさず病院に入院するつもりで来い、というとこまでいったのであった。
医者にあれやこれやと聞かれた後、CTだの胃カメラだのレントゲンだの、あれだのこれだの、覚えていられないくらいの検査を受け、医者と看護士としては、それでもまだ検査したりないらしくて
「まだ、やっていない検査はないかな」
「梅毒と水虫の検査がまだですが」
「さすがに、それをやるわけにもいくまい。他にないかな」
「あ、星占いと四柱推命とコックリさんがすんでません」
など、綿密この上ない検査の末、ふたたび診察室に通されて、
「あなたは胃ガンです」
宣告であった。

社長の “緊急!” ショートストーリー 『病床六万尺』その1

社長1 突然ではございますが、癌という事になってしまったのである。癌というのは、近ごろでは、かなり早い段階で突き止められるようだが、私のように普段、努めて早期発見を怠っている人間にとっては、突然なのである。だから、まあ、いつかはこうなるのかなあ、などと暢気に構えていたらこうなったので、あ、やっぱりね、と言う具合でだから、本人にとって突然なのかどうか、甚だ曖昧なのである。
はじめは、嫌に目まいやふらつきが続いて、だんだん、ひどくなってきたので、人のススメもあって「神経内科」という所に行ってみたのである。そこで血液検査をしたのだが、翌日、昼、外出中に電話が掛かってきたのである。「検査の結果、ひどい貧血だという事がわかりました、うちなんぞにかかっている場合ではありません。Nという大きな病院に、紹介状を書きましたので、3時までにそこへ行って間抜け面を見せなさい。すぐ入院という事になるでしょう」
時計を見れば、すでに12時半。取るものも取りあえず、いったん帰宅して、なんだかわからぬうちに、必要と思われるものをバッグに詰め込んで、あわわわわわ、と叫びつつ、N病院の受付によろめき込んだのであった。

社長のショートストーリー『短編集』

社長1その日は私用で会社を休んだ。
 ラッシュの時間帯を過ぎて空席が出てきた車内で、とある作家の短編集を開いていた。ソラキアと言う小国出身の作家で、ノーベル賞の候補にもなったことがあるという話を聞いたこともある。私はそれほど文学に詳しくないので、それがその後どういうことになったのか、知らない。
 ただ、ご縁があったのか、日本で翻訳が出版されるごとに買って読む習慣が出来てしまったというだけだ。
 ごくありふれた日常の描写の言葉が、いつの間にかトランプの札が裏返っていくように姿を変えていき、いつの間にか遠い世界に連れて行かれる、という魔法の時間の体験を味わったら離れることができなくなった。もう、かなりの高齢になるはずなので、いったいいつまでこの楽しみを続けさせてもらえるのかと思っている。
 短編をひとつ読み終えて、ほっと息を吐いて顔を上げると老嬢が二人、私の隣の空いている席を譲り合っていた。ふと気がつくと私の反対側の席も空いている。そこで、ひとつずらして二人並んで腰を下ろせるようにしてやると、なんだかそれだけのことなのに、ずいぶん大げさに礼を言われて少々照れた。
 本の続きを読もうと思って目を落とすと、二人の会話が断片的に耳に入ってきた。「ソラキア刺繍」と言っていた。ちょうど私が読んでいる作家の出身国だ。
 クロスステッチで10センチに何目、チェーンステッチはどうのこうの、という話をしている。なるほど、そういえばこの作家の作品は言葉の刺繍と言えないこともない。
 ちょっと嬉しい偶然だった。

 新幹線の三つ並んだ座席の窓際に席を占めた。この奥まったところで短編集を開くととソラキアの田舎町の屋根裏部屋か、草原の穴ぼこかに潜り込んだような気がして自分が昔話に出てくる人物のような気になる。
 私は隠れた。日本の都会から、遠く離れた国の爽やかな空の下に。
 すると数ページも読み進まないうちに、
「こちら、空いておりますでしょうか」
 女性の声に話しかけられて、窓の外を見れば相変わらず日本の工業地帯を電車は疾走しているのであった。
「どうぞ」
 と応えてその顔を見てびっくりした。先ほど山手線の中で、私の隣に座っていた二人連れだ。
 いや、よく見れば違う。通りすがりの人の服装などはっきりとおぼえているわけはないが、顔立ち、髪の色はさっきの人たちよりは若い。なにより、彼女らは私が東京駅で乗り捨てた電車に乗って行ってしまったのだし、その人達がここにいるなんて手品でも出来るわけがない。
 だが、なにか同じだという感じがしてならなかった。
(あなた方は先ほど山手線に乗っておられましたね)
 そんな質問をしてみたくなる。
 やがて座席に落ち着くと、彼女たちのおしゃべりが聞こえてきた。
「・・・・・・そうでしょ。ソラキア刺繍なんて習っている人、そうそう、いないでしょ・・・・・・」
「だからねえ、糸の色を何番にするか、なんてのもなかなかよくわからないのよね」
 私は冷たい手で頬を撫でられたような気がした。なんだかソラキア刺繍に跡をつけられているような気になった。もちろん、その刺繍を習っている人に偶然、出会うと言うことは起こりえないことではない。だから、むしろ、その偶然を楽しめばいいのだ、自分にそう言い聞かせて再び本に目を戻した。
 その短編の主人公の少年の両親はある複雑な事情から祖国を離れて長い旅に出ることになった。残された少年は、湖のほとりの町に住む叔父叔母に引き取られて、その年を過ごすことになった。少年は十一歳だった。
 湖を見渡すことが出来る部屋に少年がいると、おばさんが入ってきた。手には布と針箱が持たれていた。
 叔母さんはこのあいだから始めていた刺繍の続きに取りかかった。モチーフは、このあたりの風景のようだった。湖の景色を刺すときは、彼女はいつもこの部屋に来るのだった。
「ご存じ?ソラキア刺繍の占いのことは」
 これは新幹線で隣に座り合わせた女性の口から出た。
「占い?刺繍で占いが出来るの?」
「私もよくはわからないのだけど、ソラキアで刺繍をする女性はみんな巫女なんだって。刺繍をしてるうちに何かが降りてきて未来や過去のことを告げるのよ」
「なんだか、こわいわね。刺繍をするたびに知らなくてもいいことを知らされるなんて」
 ああ、そうか、と私は一人うなずく。少年の前で、この叔母さんは占いをしようとしているんだ。何を占うつもりなんだろう、彼の両親の運命、彼の未来・・・い、いや、待て。そこでそんなことがわかってしまうなんて、占いって残酷じゃないか?
 少年は叔母さんの手元をじっとみつめている。私もみつめている。少年には、それが占いだってわかっているんだろうか。
 やがて、叔母さんはにっこり微笑む。
「今日、きっと隣のワグネルさんが鶏を一羽持ってきてくれるわ。シチューにしましょうね」
 それも占いの結果なのか。私は叔母さんの顔をみつめている。少年もみつめている。
「僕、占いなんて、あまり好きじゃないな」
 私も好きではない。
「占いなんて、なんだか怖くて嫌いよ」
 これは隣の席から聞こえてくる会話。
 本から顔を上げると、窓の外には日本の田園が広がっていた。小雨が降っているようだ。線路と並行している農道を軽トラックが走っていく。
 ほどなく、車内アナウンスが、私が降りる駅に近づいたことを告げた。その駅からさらにローカル線に乗りかえなくてはならないのだ。

 新幹線の改札を出て跨線橋を渡ると薄暗い改札口があって、そこを抜けて階段を降りていくと、こじんまりとした地方私鉄の電車が恥ずかしげに停まっていた。
 まだ発車時刻まで時間があるせいか、車内に人は少なかった。ロングシートに腰を下ろして、ぼんやりと地元の信金の広告とショッピングモールの広告を眺めた。
 今度は本は開かなかった。なんだか、短編集に追いかけられているような気がしたので。そうこうするうちに、ダークスーツのサラリーマン、主婦、ちっちっと歯を鳴らして新聞を読んでいるオヤジ、いや、いちいちあげていたらきりがないが、様々な人が乗り込んできて、ロングシートはほぼ埋まった。
 気がつくと、私の隣にも人がいて、その膝の上には刺繍が載っていた。
(ソラキア刺繍)
 がったん、と図体のわりに派手な音を立てて電車は走り出した。私は転げそうになって、隣に座っていた女性の肩に顔を埋めてしまった。
「ご、ごめんなさい」
 くだものの匂いがした。顔が赤くなるのを感じた。
 恥ずかしかった。その声は、私の声ではなかったから。いや、でもかつてはわたしのものだった声だ。まだ、声変わりする前の私の。目を落とすと、半ズボンから出ている膝小僧が見えた。
「大丈夫よ。揺れるわね、この電車」
 照れくさくてたまらなかった。先ほど、新幹線の中で隣にいた女性のうちの背の高い方の女性だなと思った。もう不思議とも何とも思わなかった。一日のうちに同じ人と何度もあって、お互いにどんどん年齢が違っていく。一生のうちには、そんなことがあるのだと思った。 
「あの、この刺繍」
「ああ、これ、ソラキア刺繍っていうのよ。ステッチが少し変わっているでしょう。知っている?」
 知っている、あなたから教えてもらった。だが、それは口に出さなかった。
「何を刺繍しているんですか」
「そうねえ、まだぼんやりしてわからないわねえ。これ、この辺が湖の浜辺で、後ろに森があって、低い山があって、その上に空が広がっている景色になる予定なんだけど」
「どこの景色ですか」
「ソラキア」
「行ったことがあるの?」
「ないわ」
「写真で見たの?」
「そうねえ」
 と、少し困った顔になった。
「目を閉じると浮かんでくるの」
 彼女の目蓋の裏には空と湖が浮かんでくると言う。私の目蓋の裏には、それに加えて風景を見ながら刺繍をしている女性が浮かんでくるし、それを見ている十一歳の少年が浮かんでくる。
 ソラキアは大国にはさまれた小国なので、大戦中にはかなりの辛酸を舐めた国らしい。いま、刺されている刺繍に、やがて、その静かな痛みが立ち上がってくるのだろうか。それとも、静謐なままに終わるのだろうか。

 バスは行き悩んでいるようなエンジン音を立てて峡谷沿いの道を登っていく。道路脇の木々の枝が窓をこするたびに水しぶきが上がる。対岸には道はないようで、ただ、憂鬱そうな森が続いている。
 一つ前の停留所で客が降りてしまったので、バスに乗っているのは運転手と私だけになった。子供一人で、こんなところに旅してきたのが心細かった。
 終点には私が行くはずの建物が一軒あるだけなので、迷うことは出来なかった。そこへ行くか、とって返して東京に戻ってしまうか、だけだった。
(お前、大丈夫か)
 誰かに話しかけられたような気がした。
(だ、大丈夫だよ)
(寂しくないのか)
(寂しくないよ)
(本当か)
(・・・・・・)
 誰が話しかけてくるのか、推測はついていた。きっと、あの短編集をもう少し先まで読めばわかるのだろう。だが十一歳の少年に戻ってしまった私にとって、あの作家に出会うのはまだまだ年月を経てからのことになるのだろう。
(本当に大丈夫か)
(大丈夫だってば)
(俺、ついていてやるよ)
(・・・・・・)
(だから、もう泣くなよ)
 私はびっくりした。泣いているなんて思わなかったのだ。目を触ると、たくさんの涙で目縁が濡れていた。
 ほどなくして、バスは終点に着いた。エンジン音が止んでみると、周囲から小鳥の鳴き声が押し寄せてきた。バス停のすぐ前に、大きな白い建物があった。

 鋼鉄の箱のような古めかしいエレベーターを降りて、漆喰のぼんやりした白の廊下の一番奥まった部屋が、その部屋だった。鉄製のベッド、清潔なリネン、窓際の一輪挿し、そして二人の女性。
 背の高い方の一人は、先ほどよりまた若くなって、ベッドの脇の椅子に腰掛けていた。低い方の一人はベッドに仰向けに寝て目をつぶっている。息をしているのだかしていないのだかわからない。
 私はまた小さくなったらしい。すがるような目で椅子に腰掛けた女性を見上げた。
「この方は、あなたの本当のお母様。わかりますか」
「おかあたん・・・」
「この方は、もう口を聞くことはありません。もうすぐ亡くなります。その後は、私があなたのお母さんになって、あなたを育てます。それが、この方と私の約束だからです。あなたは、私のことを本物のお母さんだと思って育ちます。あなたが、その眞実を知る機会が成長するうちに、あるいは訪れるかもしれません。結局、その機会は訪れず、あなたは知らないままに生涯を終えるかもしれません。その答が、私が刺している刺繍に現れるかもしれませんし、そうでないかもしれません。また、いつかあなたが出会うことになるソラキア出身の作家の作品の中に暗示されているかもしれません。いずれにせよ、急ぐべきことではありません」
 女性は立ち上がると窓に近づいて
「空気を入れ換えましょうね」
 窓が開くと、おびただしい小鳥の声が流れ込んできて、風の音がそれに混じった。
 やがて、人の気配があって、白衣を着て眼鏡をかけた背の高い男性が入ってきた。彼が、女性に目配せすると、窓が閉められた。小鳥の声が消えた。
 彼はベッドに近づくと、横たわっている女性の手首を取り、さらに首筋やら、あちこちを触ると、
「ご臨終です」
 と言った。「臨終」という難しい言葉が、子供の私にわかったのかどうか、ともかく理解とか現実とかと無関係に、私の喉の奥から
うわあああああああ・・・
けたたましい声が、後から後から止めるすべもなく流れ出てきた。頭のてっぺんから、足の先から、内臓から尻の穴まで震えていた。悲しいとか、何かの感情があったのか、わからない。ただ、洪水のように出てくる声に自分でも驚き、呆れ、他人事のように眺めていた。おそらく、私が初めてこの世に姿を現したとき、すなわち、私にとっての天地開闢の時、聞いた声に似ていると思った。

そして、それっきりすべてを忘れてしまった。気がつくと、大人に戻った私が一人、遅い時刻の新幹線のシートに座っているきりだった。さんざん、引きずり回された末、ほっぽり出されたような気分だった。

「さあさ、飲みたまえ、飲みたまえ。うちの親戚も人数は多いんだけど、みんな車で来たとか、医者に止められたとかで、飲める相手が少なくなっちまったんだから」
ある叔父さんの何回忌かの会食の席である。私は一人っ子なのだが、他の家は兄弟が多く、叔父さん叔母さんといっても何人もあるのだが、このおじさんは、私を飲める相手と見込んでしまっているようで、いつでも捕まってはながながと付き合わされる。
もっとも、話題の豊富な人なので、話があっちに飛んだりこっちにずれたりして、結局は何のことについても話してはいない、ということになるのだが、寺の座敷の障子に差す日の光の色合いがだんだん変化するのにつれて、自分の酔い具合も変わっていくのを眺めているのは悪い気分ではない。どうかすると、こうして駄弁を振るっているのが本当の時間で、あとの仕事とかなんとかは、あいだのつなぎに過ぎないという気にさえなってくる。
離れたところにいた母がそっと寄ってきて、
「じゃあ、私はそろそろ帰らなきゃいけないから」
母はとある地方都市で手芸の先生をやっているので、これから私鉄とJRを乗り継いで東京駅まで行かなくてはならない。
私はそのまま残っていても母を送っていってもよかったのだが、送っていく方を選んだ。
電車の中で、話題があるんだかないんだかわからないような会話をぽつぽつと続けているうちに、東京駅に着いた。
それじゃ、とか、また、とか、断片的な挨拶をして改札口に向かおうとする母に、にゅうと腕が伸びてきて、誰かが握手を求めた。おじさんだった。どうやってついてきたのか、さっぱり記憶にない。ともかく例の陽気さで、別れを意味もなく盛り上げて、母の眉をひそめさせた。
プロフィール

文豪堂

Author:文豪堂
いらっしゃいませ。中川善史(自称社長)と金井哲夫(自称編集局長)が2人でしこしこ書いているふざけた電子書籍本を販売する「蕪」式会社文豪堂書店です。(社名は予告なく変更することがあります) (なおこれは個人の感想です)(効能を保証するものではありません)(おだてると調子に乗ります)

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