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あいさつ

おさむらいちゃん

363サムライ

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今週のおさむらいちゃん

新作60

ちょっと迷惑ないただきものだよーん。

社長の業務:ショートストーリー『蟻が原の合戦』

社長1  ずぶ六は、丘の上で鰯雲を見上げて寝転んで「ちくしょう、ちくしょう」と呟いている。丘の麓の田んぼでは人々が刈り取った稲を干している。
 ずぶ六は、こんなに肩幅の広い、胸板の厚い男なのに、こんな忙しい時にごろごろしている。誰も彼に働いてもらおうなどと思わない。村人から愛想を尽かされているのだ。
 もともと、怠け者で、粗暴で、喧嘩と博打に明け暮れている。金がなくなると、遠くの村に行って馬を盗んて売り飛ばして稼いでいたようだ。
  
 数ヶ月前、田植えの頃、ずぶ六は村を出奔した。あの村総出でクソ忙しい時期だというのに、誰もそれに気がつかなかったというのは、いかにあてにされていないかの証拠であった。
 今の世の中、どこかの侍の下で働いて認められれば、やがては一国一城の主になるのも夢ではない、という噂を聞き込んで、真に受けたのである。また、一国一城は無理としても、戦さのどさくさに紛れて略奪に励めば、うまい酒が飲めるという、いくらか現実的な話も聞いた。
 戦さと言ったって、喧嘩の大きいやつだろう。喧嘩に泥棒と来れば、天職みたいなものだ。なんで、これに早く気づかなかったのか、いや、こんなうまい話が、俺の耳に届く前、一体どこをうろうろしていたのだろう、と嬉しいような悔しいような気持ちで村を飛び出したのである。
 
 どこで渡りをつけたものか、ある侍大将の陣屋に入り込むことが出来た。何が出来るか、と聞かれて、馬が扱えると答えたら、早速採用であった。馬泥棒の経験が役に立ったのである。人生、誠に無駄というものはひとつもない。
 故郷の村で地面に這いつくばっている百姓どもがますます馬鹿に思えてきた。
 そもそも、こんな戦さ続きの世の中で地道に百姓なんぞやっても、いずれは戦さのために燃やされたり、略奪されたりするだけなのに、働くだけ馬鹿らしい。

 秋になって、大きな戦さに旦那の馬を引いていった。それまで日本でなかったような大きなもので、日本中の大名が東西に別れて戦うのだそうだ。
 ずぶ六は、単に馬の世話をして、この戦さを過ごす気はなかった。戦場となれば、その辺に討たれた兵の持っていた刀や槍がごろごろしているだろう。それをぶんどって、敵の首を取ってやるのだ。
 出過ぎた真似、と叱られるかもしれないが、旦那の手柄にしてやれば悪くは思われまい。いや、見所ありとして侍に取り立ててもらえるだろう。それが出世の第一歩だ。

 その日、朝霧が晴れて来るにつれ、小高い丘に囲まれた平原に、信じられないような大量の人間が、あちこちにびっちりかたまっているのが見えてきた。山の上に陣を構えているのもいれば、平地で頑張っているひと群れもある。鎧兜の緋色や青、武具や馬具の金や銀、毒々しいまでに鮮やかにずぶ六の目を射た。
 早くも、向こうの方では小競り合いが始まっている。だが、ずぶ六の旦那はじっと動かない。
 ずぶ六の方は、例の目論見を実現させたくてじりじりしてくるのだが、旦那はあくまで泰然として戦さの成り行きを見守っている。ずぶ六は焦るような思いで旦那を見上げていたが、やがて、この肝が据わって動じないところが侍の侍たるゆえんではないか、と尊敬の念が湧いてきた。旦那についていけば何とかなる。
 昼頃まで、じっとそうやっていた。どうやら、味方が押しているらしい。
 と、やおら旦那が動き出した。肝が据わっていたのではなく、どちらに付いたら得か成り行きを見ていたらしい。場合によっては、味方を裏切ることも考えていたのだろう。
 これでなくっちゃ、と、ずぶ六はますます頼もしげに旦那を見上げた。
 
 ずぶ六は、馬に添って戦場に進んでいった。
 だが、まずは、刀だ。ずぶ六は地面ばかり見ながら進んだ。戦さなんだか、落とし物捜しなんだかわからない。
 そのうち、横手の山が動いたような気がした。山に陣取っていた大軍が地響きを立てて下りてくるのである。あれは、味方の軍勢だったはずだが、と思っていると、周囲がいやに慌ただしくなった。
「コバヤカワ殿、寝返り」
 と叫ぶ声が上がった。味方だったはずのあの大軍は裏切ったものらしい。男達の野太い声が金切り声に変わった。どちらに付こうか日和見をしていた旦那の計算は全く裏目に出た。
 それからは、敵の兵が固まりとなって鉄砲水のように押し寄せてきた。滅茶苦茶だった。向こうの方で旦那が馬から引きずり降ろされるのが見えた。あたりに黒煙が立ち、昼なのに薄暗くなった。火薬と血の匂いが濃くなった。
 わけもわからず逃げた。今まで同じ隊にいて言葉を交わしていた仲間を踏んづけて逃げた。しかし、逃げながらも、死体から刀や短刀を奪うのを忘れなかった。もはや、敵を倒すためではない。これだけでも売り飛ばして金に換えなければ。
 泥水をすすり、時には百姓や商人を脅しながら逃げた。もう少しで故郷の村というところまで来て、持っていた刀や短刀や金といった獲物は、すべて野盗に巻き上げられた。結局、命ひとつだけ持って帰ってきた。
 
 ずぶ六は起きあがって、あ~あ、と欠伸をした。飽きたのである。何もやる気にならないが、何もやらないことにも飽きたのである。
 村人に立ち混じって収穫の手伝いでもやればいいものを、彼は和解のワの字も知らなければ詫びのワの字も知らない。

 地面の草の禿げたあたりが、じりじりと動いているように見えた。
 蟻であった。驚くほどの蟻があっちへ行ったりこっちへ行ったりぶつかったりしている。
「戦さだ」
 よく見ると、蟻の半分くらいは、心持ち赤っぽい。赤方と黒方が戦っている、と、ずぶ六には見えた。
「あれが桃配山、これが松尾山、これが南宮山・・・」
 地面の小さな凹凸が、彼が逃げ回ってきたあの大地に見えてきた。

 ・・・かたや黒方、総大将。徳川家蟻を初めとして、前田蟻長、伊達蟻宗、加藤清蟻、福島正蟻、細川蟻興、池田輝蟻、井伊蟻正、藤堂蟻虎、いずれ名だたる猛将なり。
 こなた赤方、総大将は毛利蟻元の下、黒方に劣らぬ豪傑揃い、上杉景蟻、島津蟻久、宇喜多蟻家、石田三蟻、大谷蟻継、小早川秀蟻、長宗我部蟻親、真田蟻幸・・・。
 早朝より両軍、蟻が原に対陣して睨み合うことすでに一刻、黒方、先鋒・福島正蟻、触覚を振り上げ振り上げ、駆け出さんとする横を、その時早く駆け抜けたるは井伊蟻正。福島正蟻、かっと目を見開いて呼ばわるは
「やあ、そこな井伊殿、総大将・徳川家蟻公より先陣を仰せつけられたるは、我ら福島隊なるぞ。そを抜け駆けせんとは卑怯なり。返せや戻せ、戻せや返せ」
「何をおっしゃる、福島殿。それがし、ただ物見に出たるのみ。敵の様子を探るは戦さの習い。それを知らぬ福島どのにては、よもあらじ。されど、物見じゃとて敵が掛かってくれば、その限りにあらず。堂々戦って大将首挙げ申すべし」
「憎っくきかな、憎っくきかな。者ども、井伊殿の抜け駆け許すな。急げや急げ」
 ここに蟻が原の戦いの幕は切って落とされたり。迎える赤方。宇喜多秀蟻、一歩も引かず・・・。

 蟻どもは飽きずに戦っている。ずぶ六は飽きた。どうも戦場より帰ってから飽きっぽくなっている。  
 よいしょ、と草鞋を履いた足を上げると、蟻の一番多そうなところに、どしんと降ろした。

 黒方、赤方、奮戦奮戦また奮戦、敵の頭といわず尻といわず食いつき食いつき、辺り一面、足のない蟻首のない蟻ちぎれたる蟻、無惨なるかな、凄まじきかな、それでも両軍、少しもひるまず・・・
「あれを見よ」
「空が落ちてくる」
 空より草鞋を履いた足が落ち来ては蟻をありありと踏みにじり、上がってはまた踏みにじる、たちまち辺りはアリ叫喚のアリ地獄、
「ひるむな、油断すな」
 だが、その声も空しく、別の方より、
「逃げろ、今度は大水だ」
 生き残りし蟻たちに、じゃあじゃあ降り注ぐは無情の雨ならずして、ずぶ六の立ち小便。

 小便を終わり、ぶるっと身体を震わせると、
「ばかめ。ざまあみろ」
 蟻相手に、さも憎々しげにそう言うと、ずぶ六は丘を下りていった。
 その晩、ずぶ六は生き残った一匹の蟻に、あちらを食われこちらを食われ、一睡も出来なかったという。


 

社長の業務:ショートストーリー『蟻が原の合戦』

社長1 ずぶ六は、丘の上で鰯雲を見上げて寝転んで「ちくしょう、ちくしょう」と呟いている。丘の麓の田んぼでは人々が刈り取った稲を干している。
 ずぶ六は、こんなに肩幅の広い、胸板の厚い男なのに、こんな忙しい時にごろごろしている。誰も彼に働いてもらおうなどと思わない。村人から愛想を尽かされているのだ。
 もともと、怠け者で、粗暴で、喧嘩と博打に明け暮れている。金がなくなると、遠くの村に行って馬を盗んて売り飛ばして稼いでいたようだ。
  
 数ヶ月前、田植えの頃、ずぶ六は村を出奔した。あの村総出でクソ忙しい時期だというのに、誰もそれに気がつかなかったというのは、いかにあてにされていないかの証拠であった。
 今の世の中、どこかの侍の下で働いて認められれば、やがては一国一城の主になるのも夢ではない、という噂を聞き込んで、真に受けたのである。また、一国一城は無理としても、戦さのどさくさに紛れて略奪に励めば、うまい酒が飲めるという、いくらか現実的な話も聞いた。
 戦さと言ったって、喧嘩の大きいやつだろう。喧嘩に泥棒と来れば、天職みたいなものだ。なんで、これに早く気づかなかったのか、いや、こんなうまい話が、俺の耳に届く前、一体どこをうろうろしていたのだろう、と嬉しいような悔しいような気持ちで村を飛び出したのである。
 
 どこで渡りをつけたものか、ある侍大将の陣屋に入り込むことが出来た。何が出来るか、と聞かれて、馬が扱えると答えたら、早速採用であった。馬泥棒の経験が役に立ったのである。人生、誠に無駄というものはひとつもない。
 故郷の村で地面に這いつくばっている百姓どもがますます馬鹿に思えてきた。
 そもそも、こんな戦さ続きの世の中で地道に百姓なんぞやっても、いずれは戦さのために燃やされたり、略奪されたりするだけなのに、働くだけ馬鹿らしい。

 秋になって、大きな戦さに旦那の馬を引いていった。それまで日本でなかったような大きなもので、日本中の大名が東西に別れて戦うのだそうだ。
 ずぶ六は、単に馬の世話をして、この戦さを過ごす気はなかった。戦場となれば、その辺に討たれた兵の持っていた刀や槍がごろごろしているだろう。それをぶんどって、敵の首を取ってやるのだ。
 出過ぎた真似、と叱られるかもしれないが、旦那の手柄にしてやれば悪くは思われまい。いや、見所ありとして侍に取り立ててもらえるだろう。それが出世の第一歩だ。

 その日、朝霧が晴れて来るにつれ、小高い丘に囲まれた平原に、信じられないような大量の人間が、あちこちにびっちりかたまっているのが見えてきた。山の上に陣を構えているのもいれば、平地で頑張っているひと群れもある。鎧兜の緋色や青、武具や馬具の金や銀、毒々しいまでに鮮やかにずぶ六の目を射た。
 早くも、向こうの方では小競り合いが始まっている。だが、ずぶ六の旦那はじっと動かない。
 ずぶ六の方は、例の目論見を実現させたくてじりじりしてくるのだが、旦那はあくまで泰然として戦さの成り行きを見守っている。ずぶ六は焦るような思いで旦那を見上げていたが、やがて、この肝が据わって動じないところが侍の侍たるゆえんではないか、と尊敬の念が湧いてきた。旦那についていけば何とかなる。
 昼頃まで、じっとそうやっていた。どうやら、味方が押しているらしい。
 と、やおら旦那が動き出した。肝が据わっていたのではなく、どちらに付いたら得か成り行きを見ていたらしい。場合によっては、味方を裏切ることも考えていたのだろう。
 これでなくっちゃ、と、ずぶ六はますます頼もしげに旦那を見上げた。
 
 ずぶ六は、馬に添って戦場に進んでいった。
 だが、まずは、刀だ。ずぶ六は地面ばかり見ながら進んだ。戦さなんだか、落とし物捜しなんだかわからない。
 そのうち、横手の山が動いたような気がした。山に陣取っていた大軍が地響きを立てて下りてくるのである。あれは、味方の軍勢だったはずだが、と思っていると、周囲がいやに慌ただしくなった。
「コバヤカワ殿、寝返り」
 と叫ぶ声が上がった。味方だったはずのあの大軍は裏切ったものらしい。男達の野太い声が金切り声に変わった。どちらに付こうか日和見をしていた旦那の計算は全く裏目に出た。
 それからは、敵の兵が固まりとなって鉄砲水のように押し寄せてきた。滅茶苦茶だった。向こうの方で旦那が馬から引きずり降ろされるのが見えた。あたりに黒煙が立ち、昼なのに薄暗くなった。火薬と血の匂いが濃くなった。
 わけもわからず逃げた。今まで同じ隊にいて言葉を交わしていた仲間を踏んづけて逃げた。しかし、逃げながらも、死体から刀や短刀を奪うのを忘れなかった。もはや、敵を倒すためではない。これだけでも売り飛ばして金に換えなければ。
 泥水をすすり、時には百姓や商人を脅しながら逃げた。もう少しで故郷の村というところまで来て、持っていた刀や短刀や金といった獲物は、すべて野盗に巻き上げられた。結局、命ひとつだけ持って帰ってきた。
 
 ずぶ六は起きあがって、あ~あ、と欠伸をした。飽きたのである。何もやる気にならないが、何もやらないことにも飽きたのである。
 村人に立ち混じって収穫の手伝いでもやればいいものを、彼は和解のワの字も知らなければ詫びのワの字も知らない。

 地面の草の禿げたあたりが、じりじりと動いているように見えた。
 蟻であった。驚くほどの蟻があっちへ行ったりこっちへ行ったりぶつかったりしている。
「戦さだ」
 よく見ると、蟻の半分くらいは、心持ち赤っぽい。赤方と黒方が戦っている、と、ずぶ六には見えた。
「あれが桃配山、これが松尾山、これが南宮山・・・」
 地面の小さな凹凸が、彼が逃げ回ってきたあの大地に見えてきた。

 ・・・かたや黒方、総大将。徳川家蟻を初めとして、前田蟻長、伊達蟻宗、加藤清蟻、福島正蟻、細川蟻興、池田輝蟻、井伊蟻正、藤堂蟻虎、いずれ名だたる猛将なり。
 こなた赤方、総大将は毛利蟻元の下、黒方に劣らぬ豪傑揃い、上杉景蟻、島津蟻久、宇喜多蟻家、石田三蟻、大谷蟻継、小早川秀蟻、長宗我部蟻親、真田蟻幸・・・。
 早朝より両軍、蟻が原に対陣して睨み合うことすでに一刻、黒方、先鋒・福島正蟻、触覚を振り上げ振り上げ、駆け出さんとする横を、その時早く駆け抜けたるは井伊蟻正。福島正蟻、かっと目を見開いて呼ばわるは
「やあ、そこな井伊殿、総大将・徳川家蟻公より先陣を仰せつけられたるは、我ら福島隊なるぞ。そを抜け駆けせんとは卑怯なり。返せや戻せ、戻せや返せ」
「何をおっしゃる、福島殿。それがし、ただ物見に出たるのみ。敵の様子を探るは戦さの習い。それを知らぬ福島どのにては、よもあらじ。されど、物見じゃとて敵が掛かってくれば、その限りにあらず。堂々戦って大将首挙げ申すべし」
「憎っくきかな、憎っくきかな。者ども、井伊殿の抜け駆け許すな。急げや急げ」
 ここに蟻が原の戦いの幕は切って落とされたり。迎える赤方。宇喜多秀蟻、一歩も引かず・・・。

 蟻どもは飽きずに戦っている。ずぶ六は飽きた。どうも戦場より帰ってから飽きっぽくなっている。  
 よいしょ、と草鞋を履いた足を上げると、蟻の一番多そうなところに、どしんと降ろした。

 黒方、赤方、奮戦奮戦また奮戦、敵の頭といわず尻といわず食いつき食いつき、辺り一面、足のない蟻首のない蟻ちぎれたる蟻、無惨なるかな、凄まじきかな、それでも両軍、少しもひるまず・・・
「あれを見よ」
「空が落ちてくる」
 空より草鞋を履いた足が落ち来ては蟻をありありと踏みにじり、上がってはまた踏みにじる、たちまち辺りはアリ叫喚のアリ地獄、
「ひるむな、油断すな」
 だが、その声も空しく、別の方より、
「逃げろ、今度は大水だ」
 生き残りし蟻たちに、じゃあじゃあ降り注ぐは無情の雨ならずして、ずぶ六の立ち小便。

 小便を終わり、ぶるっと身体を震わせると、
「ばかめ。ざまあみろ」
 蟻相手に、さも憎々しげにそう言うと、ずぶ六は丘を下りていった。
 その晩、ずぶ六は生き残った一匹の蟻に、あちらを食われこちらを食われ、一睡も出来なかったという。


 

社長の業務 きんどるを使ってみる

社長 きんどるである。あのAmazonのKindleである。電子書籍端末である。
 まあ、蕪式会社文豪堂書店は電子書籍の製作、頒布を主たる業務としているくせに、社長は端末にぜ~んぜん無関心であったのである。
 自慢じゃないが、PCや通信に限らず、その他キカイ全般、技術系全般に弱いのである。このブログだって社長は文章や絵を描くだけで、あとは相棒の金井君に丸投げなのである。だから、別に本なんて、紙のやつでいいじゃん、と社長にあるまじきことを思っていたのである。
 それにi-Padを持っている友達が、ありゃあ、読書には向かねえなあ、てなことを言っていたのである。寝っ転がって読むには重たすぎるというのである。
 そりゃあ寝っ転がって本を読みながら、いつの間にかヨダレくって眠ってしまうというのは人生最高の喜びのひとつであるから、それが出来なきゃ意味ないのである。
 ところが、ある日、電気屋で別のメーカーの電子書籍端末を持ってみたところ、すっごく軽かったのである。「これなら、ヨダレ垂らして眠れる!」と思った途端に、急に欲しくなってきたのである。

 Kindleには、一万五千なんぼとか、一万二千なんぼとか、七千なんぼとか、色んな値段のものがあるのだが、貧乏な社長は選択の余地なく、一番安い七千なんぼのである。Kindle Paperwhiteちゅうやつである。
 ヤマトに届けてもらって、わーいわーい、と早速使おうと思ったら、これが接続するのにwi-fiというやつを使わなきゃいけん、ということがわかったのである。
 なんせキカイに弱い社長であるから、wi-fiなんちゅうのに強いわけもなく、なんか聞いたことあるけど、まあ別の惑星の話だろうくらいにしか思っていなかったのである。
 慌てて調べてみると、家で環境を作るには、また別の機材が必要だし、ホテルとか公共的なところで使えるのもあるが、大抵、月額何百円だかかかるのである。
 こちとらは、単に書籍をダウンロードするのに使うだけだから、ひと月に3分とか5分くらいしか使わないと思うのである。それどころか、全然使わない月だってあるかもしれないのである。てんで馬鹿馬鹿しいのである。
 べそをかきそうになりつつ、さらに調べると、スターバックスの店内で使えるタダのwi-fiがあることがわかった。これなら、欲しい本があった時に出掛けていって、ちょろっと接続すればいいので、私向きである。
 私は別にスタバの回し者ではないが、私と同じようなおっちょこちょいがいるといけないので、一応リンクを貼っておくのである。http://starbucks.wi2.co.jp/pc/index_jp.html(ただし、すべてのスタバの店で使えるわけではないので、要注意)

 それから二、三日して、ようやくスタバに出掛けることが出来た。wi-fi初体験である。意味もなく緊張したりするのである。
 接続はあっけなくできた。できたらできたで、何故か逆上してしまって、どんな本をダウンロードするのか忘れてしまった。事前に調べて、興味のある本に目星をつけておいたのだが、あらかた頭から蒸発してしまった。
 辞書機能を使ってみたくて、とりあえず英語版のシャーロック・ホームズ全作品というのを買ってみた。
 お代は100円である。緋色の研究も、四つの署名も、バスカヴィルの犬も、全短編も入っていて100円である。なんか気の毒になるくらいである。
 これじゃ紙の本屋さんも苦しいよね、と各方面を気の毒がりつつ開けてみる。単語の上を指で長押しすると辞書が開いて意味を教えてくれる。
 私の脳みその英単語を格納する部分は退化と萎縮を重ねて、メダカの脳みそほどになってしまっているので、こういう機能はありがたい。私程度の読解力でもそれなりにハカが行く。
 ワトソンは軍医として行ったアフガニスタンで大怪我をしてイギリスに戻ってきたというところから始まるのか、とか、だからホームズものは帝国主義の英国という背景抜きには本当にはわからないのかもしれない、などと、様々なカンガイに耽ったりも出来るのである。
 
 近代文学を中心にタダのコンテンツというのも、いっぱいあるのである。
 漱石も芥川も太宰もタダである。ポーもカフカもドストエフスキーも魯迅もタダである。関係ないけど、我が文豪堂書店の出版物もタダである。タダという意味において、東西の名だたる文豪と肩を並べているのである。
 文豪堂の名に恥じないといえよう。
 さすがさすが、偉い偉い、立派立派、と自画自賛しつつ、タダを何か試みてみようかな、と思っているうちに、さしたる理由もなく、カフカの「城」をダウンロードしてしまった。
 こんな長編がタダである。こんな長いの、今の私に読めるかな、という懸念もあるのである。とはいえ、まあ、タダなんだからいいや、という開き直りもあるのである。
 しかし、あれもタダ、これもタダ、と無闇にダウンロードして全然読まないという危険性もあるな、とは思うのである。
 それじゃあ、単なる「電子積ん読機」になってしまうのである。