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2013年04月

今週のおさむらいちゃん

新作22

ゴールデンウイークおめでとう号。剣の道はちびしい。
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社長の業務:ショートストーリー『雨とあづさ弓』

社長1 女が膝の上に載せた弓の弦を弾く。びいいん、びいいん、という音が部屋の中に響く。
 床の間の前に、女の子が座っている。
 女の子に向かい合って、この薬種問屋の主人夫婦、番頭を初めとした店の主立ったものが、神妙な顔をして座り、女の子をじっと見つめている。
「からびつ」
 と女の子がぽつりと言った。
 店の者達は、首をひねったり、顔を見合わせたりしている。
「この家に唐櫃はおありか」
 と弓を弾いていた女が主人に尋ねる。
「ございます」
「されば、その中をお捜しあれ」
 番頭が店の者達に目配せをすると、一斉に立ち上がった。
 しばらくして手代の一人が戻ってきて、番頭に耳打ちする。番頭は、主人の耳にささやく。主人は、しばらく狐に摘まれたような顔をしていたが、女の子と女に向かって辞儀をすると、
「今、店の者の申すには、蔵にある唐櫃の中にいた、と言うことです。身体に別状はないそうです」
 三日前、この家の五歳になる娘が姿を消した。店の者はもちろん、町内、親戚に至るまで手分けをして捜したが見つからなかった。
 かどわかされたか、天狗に攫われたか、神隠しにあったかとささやかれ始めた頃、店の者が、お咲という十一才の女の子の占い者のことを聞き込んできた。
 梓弓というと、普通は年取った女が弓を鳴らしながら神を降ろす占いであるが、これはお袋らしい女が弓を鳴らすと、お咲にコノハナサクヤヒメが降りて、告げごとをするというのである。
 ともかく娘は発見された。なぜ、そんなところにいたのか、娘自身ぼんやりして語らなかった。やはり、一種の神隠しだろうか、と言われた。

 木々の若葉を濡らす雨が降る。九尺二間の裏長屋である。
 お咲のお袋は、遊びに来た汚い婆ァと昼間から酒を呑んでいた。
「なに、こんな長屋、すぐに引き払って表店に引っ越すんだ」
 お袋がいうと婆ァは
「へへ、それが出来ないのはどうしてかね」
 お咲の占いは、このごろ、よく流行る。大店の主人や高禄の旗本までが秘かに頼み込んでくる。
 だが、お袋は金遣いが荒かった。人を集めて酒盛りをしたり、ふらりとどこかに一人で出掛けては酒を呑んだり、役者買いをしたりする。遊びに行った先で騒動を起こしては小判で片を付けて帰ってくる。
「走りの鰹なんぞ奢っていた日には、いつまでたっても引っ越しなんざできねえよ」
 と、婆ァが、するめを食いちぎりながら嘲笑った。年の割に歯が丈夫と見える。
 お咲は、二人を背に、上がりがまちに腰掛けて、少し開いた腰障子の隙間から雨を見ていた。
「おい」
 と、お袋がいった。お咲は貧乏徳利を抱えると、雨の中、酒を買いに出て行った。

 婆ァは名前も商売も住まいもわからない。お袋も、婆ァとか婆さんとか呼ぶ。
 時折やってきては図々しく酒を呑む。お袋も、忌々しそうにしているが断らない。
 お袋が留守の時でも上がり込んできて、台所の貧乏徳利を勝手に取り上げては呑む。酒を切らしていると、お咲に買いに行かせる。
「あの女は、わしにゃ逆らえないんだ。だから、お前も逆らえないんだ」
 と言う。
「お前の本当のお袋は、あの女に殺されたんだ」
 と言ったことがある。そうかと思うと、
「さっきのは嘘さ。お袋を大事にしてやんな」
 と言う。

 雨にびしょぬれになって、お咲が酒屋から帰ってくると、
「遅い」
 とお袋が言った。婆ァは皮肉そうに、
「ふん、誰のお陰で昼間から酒を呑んでいられるのやら」
「お咲のお陰というのかい。なに、あいつは切れ切れの言葉を言うだけさ。それをつなげて占いに拵えるのは、あたしさ。つまりは、あたしがやっているのさ」
「いつまで、これが続くんだか」
「へっ、あいつが役に立たなくなったら、女郎にでも売り飛ばすさ」
「お咲に聞こえるよ」
「大丈夫。あいつは、少し足りないんだから」
 お咲は雨を眺めているうちに、梓弓を聞いているような心持ちになってきた。いつもは梓弓を聞いていると、自然に言葉や光景が頭に浮かんでくる。それを口に出して言うだけだ。
「深い森。深い森の中の、あたし・・・」
 そっと呟いた。

 翌朝は晴れた。お咲は一人で芝神明のあたりを歩いていた。お袋達はまだ長屋で寝ているだろう。
 とある商家の中で慌ただしい気配があった。お咲はその前に立つとかん走った声で
「台所の水瓶の中」
 と叫んだ。
「あ、この子は今評判の占い者だ」
 店の者の一人が言った。
 この家では、さる大名から拝領した大切な御神酒徳利が失せて、大騒ぎになっていたのである。品は、お咲の言う通りに出てきた。
「ありがたや、ありがたや」「神業だ」「神の申し子だ」
 番頭が、
「ありがとうございました。どちらへおいでになるところで?」
 と聞くと、お咲ははっきりした声で、
「お伊勢さま、お伊勢さまの森」
 と答えた。
 神童が伊勢参りに出掛けるという噂を聞いて町内やあちこちの町から、自分もあやかりたい、一緒に行かせてくれと言う者がぞろぞろ出てきた。中には、女の子が箱根の山を越えられるのかと心配してついてくるものもある。
 お咲はその群衆を振り返ると、
「ついてくるな!」
 と、叫んだ。
 そして、朝の高輪の海の眩しい光を横顔に受けながら、一人、品川の方に歩いていった。 

 

今週のおさむらいちゃん

新作21

明日は暖かくなるといいね。

社長の業務:ショートストーリー『嘘つき爺さんの駄洒落人生』

社長1 僕のお爺さんは嘘つきだと、パパとママは言う。
 ママは、結婚してみて舅が大嘘つきなことを初めて知ったという。パパは、ママはお爺さんが嘘つきだというのを承知でお嫁に来たという。
 どっちもどっちかもしれないが、僕は、お爺さんの言うことは本当だと信じている。

 お爺さんは、もともと風呂屋だったのだそうだ。戦争が始まると、
「銭湯だったので戦闘機乗りになった」
 撃墜王だったそうだが、人を一人も殺したことはない。落ちてくる敵のパイロットを網で掬って助けたそうだ。
「掬って救ったんだ」
 助けた捕虜は、商売柄、飛行機の下にぶら下げた風呂桶に載せて運んだ。その数はものすごいものだった。
「ホリョ数千だな」
 そんなたくさんの人間が風呂桶で運べるのかと思うだろうが、
「桶だけにオッケーだった」
 捕虜によくしてやったので、大変慕われた。そこで、皆を連れて南の国を見物に言った。
「南を皆見に行ったんだ」
 南の国で虎刈りをした時、捕虜達は虎に捕まってしまった。
「トラわれの身になったんだな」
 お爺さんは日本刀を持ってトラに立ち向かったが、南の国は暑いので刀が溶けてしまった。
「カタナシだな」
 仕方なく弓矢で虎を撃ったところ、虎も暑さのあまり溶けてしまった。溶けたのを舐めてみると甘い。お爺さんは、これを材料にして、
「虎矢の羊羹を作って大儲けした」
 さて、この南の国は悪い皇帝に支配されていた。お爺さんは、捕虜達を連れて革命軍に加わった。
「皆のもの、敵に後ろを見せるな。恥をかくめえ」
 皇帝の城は、学校の前にあった。
「校庭にあったんだ」
 お爺さんは学校の屋上から岩を落として城を潰してしまった。
「高低差を利用したんだ」
 皇帝が反省したので、お爺さんは弟子になることを許してやった。
「皇帝が高弟になることを肯定したんだ」
 さて、皇帝ネタも飽きたのでお爺さんは日本に戻ることにした。が、もとの風呂屋は空襲で焼けてしまったので、海の中の竜宮城に住むことにした。だが、竜宮城も魚雷攻撃でボロボロ、乙姫は泣き叫んでいた。
「姫が悲鳴を上げていたな」
 お爺さんは苦労して新しい竜宮城を造ってあげた。
「海の苦しみだった」
 カメがよく手伝ってくれたので、出世させてやった。
「カメが家名を上げたんだ」
 家老にしてやったのだが、カメは死んでしまった。
「カロウ死だな」
 だが、鯛やヒラメは無関心で冷たかった。
「ひらめえ振りをしてタイ然としてやがる」
 イワシは悪口ばかり言っていた。
「イワシておけばいい気になりおって」
 お爺さんは怒って地上に帰ることにした。
「わしの神経をサカナでしおった」
 そのお爺さんに乙姫は玉手箱をくれた。中には虎矢の羊羹が入っていた。
「これは南の国の思い出だ」
「サウスか」
 などという会話があって、戻ってきたお爺さんは、虎矢の羊羹のほかにも、うさぎ屋のどら焼き、鹿せんべい、象印まほうびん、タイガー電子ジャー、ピューマのジョギングシューズなどに事業を拡張し、百獣の王・ターザンと呼ばれた。
 ターザンは、泰山に住み、唐桟を着て、サザンを聴き、サザエさんを見ていた。
 サザエさんの登場人物を見るたび、竜宮城を思い出した。
「乙姫に会いたい」
 お爺さんは海辺へ行ってみた。すると、カメが子供達に苛められていたので、助けてあげた。
「さあ、わしを竜宮城へ連れて行ってくれ」
「残念ながら、私は『ウサギとカメ』のカメなのです」
 仕方なくお爺さんはウサギになってカメと競争することになった。しかし、間違ってウサギではなくウナギになってしまったので惨敗した。勝って有名になったカメは、
「家名を上げたな」
「それはさっきやった」
 誰と誰のだかわからない会話などもあったが、乙姫に会えないのを悲観したお爺さんは、そこに偶然落ちていた玉手箱を開けてしまった。
 すると中から白い煙がもうもうと出てきて、
「お爺さんはお爺さんになってしまいましたとさ」

「そうか、それでお爺さんはお爺さんになったんだね」
 僕はお爺さんの話を聞いて感動していた。
「でもさ、お爺さんがお爺さんになる前のもとのお爺さんは、どうやってお爺さんになったの?」
「聞きたいか」
「うん」
「そもそも、わしは風呂屋をやっていたんだ。戦争が始まると銭湯だったので戦闘機乗りになって・・・」

 

今週のおさむらいちゃん

新作20

なんとなく不定期連載のおさむらいちゃんだよーん。

社長の業務:ショートストーリー『桜の小坊主』

社長1 その寺には一本の大きな桜の古木があった。
 どういうものか、余所の桜より早く咲いて遅く散る。ごつごつした岩のような幹から空いっぱいに伸びた枝に、驚くほどの花を咲かせるのである。
 散り始めると、その寺のさして広くない境内は、どこもかしこも風に乗って来た花びらが敷き詰められて、寺全体が桜色に染まったように見える。
 その花びらを掃除するのは、二人の小坊主の仕事であった。千念と万念である。

 年上の千念は十二歳。中どころの武家の出である。しかも、長男であった。本来なら、家を継がなければならない。それが、ある時、夢で菩薩に会って、大部の経典を授かった。それ以来、仏道への憧れが激しく芽生えた。
 父に叱られようと、母に泣かれようと、両親を説いて説いて、ついに家督は弟に譲るということにして、父が住職と懇意にしていたこの寺へ入ったのである。
 住職は、その聡いのに驚いた。夢で菩薩から授かった経典というのも嘘ではないらしく、その内容をことごとく諳んじていた。
 住職は、いずれは彼を遠国の大きな寺に出して修行させようと言った。

 年下の万念は十歳。これも武家の出身であったが、下級の貧しい家の三男であった。
 家は長兄が継ぐ。二人の兄は秀才であった。それに引き替え、彼は、すべての才を兄達に吸い取られてしまったかと思われるほど、愚かであった。
 将来、他家から養子の口がかかるとも思えず、学問や剣の道に生きる術を見出すのも無理、貧しい家の厄介者になるのが確実、ということで、伝手を頼ってこの寺に入ることになった。いわば、体のいい口減らしである。
 
 桜の花弁は、あまりに多いので足下が埋まりそうなほどである。
 それを千念は、丹念にほうきで掃き清めていく。その横で、万念は掃くというよりほうきを振り回すだけで、花弁が煙のようにあたりに舞い立つ。
 その万念のほうきに、この寺に住みつく猫がじゃれつく。この猫も愚かであった。
 万念に髭を切られたり、放り投げられたり、という悪戯をされるのに、万念になつくのである。愚か者は愚か者同士、仲がよくなるのかもしれない。

 万念が跳ね上げた花弁が降ってくるのを溜息まじりに眺めていた千念であったが、その視線の先で花びらの一枚が、揺れながらだんだん大きくなっていくような気がした。
 手のひらほどの大きさになり、手拭いほどの大きさになり、さらには人間の子供ほどになり、そして、本当に子供に姿を変えたのである。御伽草子にでも出てきそうな古風な稚児の姿であった。
「我は桜なり。今日、童子に姿を変え、汝らに未来のことを告げん」
 と、その稚児は言った。
 桜に未来のことがわかるのか、と千念が問うと、
「樹木は年を経ると、自ずから過去と未来を見通し、その枯れる時を知る。我、遠からずその時を迎えることを悟りたれば、汝ら、我によく仕えしことをねぎろうて、未来のことを告げん。もし知りたくば」
 千念は驚いて稚児を見ていたが、かぶりをひとつ振ると、
「お教え下さいませ。私が僧として、どのような道を歩んでいくのか」
 と叫ぶように言った。だが、稚児は千念には答えず、ぼんやりと何が起こっているのか呑み込めていない様子の万念に、
「汝は、この寺の住職になるであろう」
 と言った。呆けた薄ら笑いを浮かべて黙っている万念に、さらに
「汝、我が枯れし後、また、一本の桜を植えよ」
 と言った。万念は笑い顔のまま頷いた。わかって頷いているのかどうかは怪しいものだった。
「私は・・・私はどうなるのです」
 千念はすがるように訊ねた。すると、
「汝は、どうなりたい」
 意外な反問に千念はしばし言葉を失ったが、
「私はさる遠国の大きな寺へ参って修行いたします」
「それで」
「仏法を極め、徳を積みます」
「それで」
「悩み苦しむ一切衆生を救うことに専心いたします」
 稚児は、その切れ長の目で冷たく微笑んで千念を見ていたが、
「汝は桜になる」
 とひと言、言った。
 千念の耳の中で嵐が起こったようだった。桜の花弁の散りようが激しくなった。まるで桜の巨木全体が花弁に姿を変えて崩れ落ちてくるかのように、稚児と千念と万念と猫の上に降り注いでくる。千念は立っていられなくなって、その場に仰向けに倒れてしまった。彼を埋めるように桜が降り積む。
 しかし、稚児と万念と猫は、堆積した花弁に沈むこともなく、その上で軽やかに跳ねるようにして遊び踊っているようだった。

 千念は、その年のうちに遠国へ修行に向かった。
 来年か再来年と考えていた住職を掻き口説いて、今年のうちに出してもらうことになったのである。その熱心さたるや、この寺に来る前に両親を説得したのと同じ調子であった。
 その旅立ちは、まるで何かから逃げるかのようだった。
 千念は大寺に入ったものの、いつしか行方が知れなくなった。

 桜の古木は枯れた。
 万念は、住職に頼んで、新たな桜を植えることを許してもらった。どこからか、桜の若木を手に入れてきて、彼自らの手で植えた。
 何十年かが過ぎ、万念は稚児の予言通り、この寺の住職になった。
 境内には、大きな桜の木があって、その花弁を掃除するのは、昔と変わらず小坊主の大仕事だ。 

 

今週のおさむらいちゃん

新作19

おさむらいちゃんは、もしかして強いのだ。

社長の業務:豪華!?『貧者のオードブル』

社長2

 社長はビンボーであるから常日頃、いかに金をかけずに面白おかしく暮らすかということばかり考えておる。

 その日は、ぼんやりと某社のクラッカーの箱の裏に載っていた写真を思い浮かべていたのである。クラッカーに色んな美味しそうなものを載せて「オードブルにどうぞ」というようなキャプションがついていた。
 その中に、クラッカーに輪切りのゆで卵を載せ、その上にキャビアをトッピングしたものがあったはずだ。
「うーむ、クラッカーにも卵にも手は出るが、キャビアには手が出んな」
 キャビア一瓶あれば、何食まかなえるんだって話なのである。

 そこで何かキャビアの代用になるものはないか、と考え始めたのである。
 魚介系で塩辛いもの、と考えてみると、粒ウニとかイクラ、筋子などが思いつくが、お値段の点で却下である。
 そのうちに、「イカの塩辛」というのを思いついた。キャビアの代役を務めてもらうのだから「塩辛キャビア」と命名しよう。
 試してみると、ゆで卵とクラッカーのもそもそした食感の向こう側から、突如、塩辛のぬるんとした舌触りが現れてくるところなぞ、満員電車の中で宇宙人に会ったような不思議な感じである。日常から脱出したいものの、その勇気がないというお父さんなどにお勧めしたい。ちょっと妙ではあるが、まずくはない。(クラッカーは無塩のものである)

 うん、これは一応成功だ。他のものも試してみよう。
 もともと、ゆで卵なんてものは、おにぎりと一緒に遠足に持っていって塩をつけて食うものであるから、塩気があればなんでも似合いそうである。ただ、おつまみであれば、ちょっと癖のあるほうがいい。

 そこで、味噌。味噌キャビアである。
 もともと、味噌汁の中に入るものが卵の上に載せられるのは照れくさいかもしれないが、あえて載ってもらうと、これが塩辛以上に合う。そういえば、すでに味噌は「もろきゅう」として、おつまみ経験は豊富なのであった。ベテランの手腕とでも言うのだろうか。

 続いて、梅干しキャビア。梅干しの肉を包丁で叩いて、少しかつお節を混ぜる。本当は、これに卵黄を混ぜれば日本酒にもってこいのつまみになるのだが、今日は生ではなく茹での卵が相手である。これも、酸味で、ちょっと目先が変わって面白い。

 ついでに、葉唐がらしの佃煮キャビア。だんだん、なんでもあり感が出てきたが、これは一番とんがった味のはずなのに、ゆで卵とクラッカーに「大人になれよ」と諭されたのか、一番大人しい味になってしまった。

 ここまで来て気がついた。
 塩辛、味噌、梅干し、佃煮、なんだか、ご飯のおかずみたいなもんばかりではないか。オードブルだったはずなのに、妙にお代わり君的な世界が展開している。
 ゆで卵も無塩クラッカーも強い味がないだけに余計ご飯的なのである。

 これではちょっと寂しい。単に卵を色んな味付けで食べているだけという言い方も出来る。再び某社クラッカーの写真を思い浮かべる。
 そうそう、スモークサーモンなんかも載っていた。しかし、これまた、少々お高い。
 だが、社長はスモークサーモンなんかに負けていないのである。スーパーのお刺身売り場に敢然と赴くのである。
 サーモンの刺身をサクで買ってくる。サクで買うと安いのである。200円くらいで一人前としては十分すぎるほどになる。
 これを切って、オリーブ油と酢と醤油と塩と胡椒を混ぜたものであえると、なんと「サーモンのカルパッチョ」の出来上がりである。スモークサーモンに堂々対抗し得ているではないか。
 名前だって、「スモーク」なんてもっちゃりしたのより、「カルパッチョ」の方が軽やかで活発そうでイキでいなせで江戸っ子である。

 緑の彩りが欲しいということで、キュウリを小口に刻んで、塩もみしてマヨネーズと酢と胡椒であえる。名付けて「キュウリのコールスロー」というのはいかがだろうか。その辺のレストランのメニューに載っていてもよさそうだ。
 こうなると、もう名付けたもん勝ちというか言ったもん勝ちの世界である。材料費40円くらいのものが名前でもって千円くらいに売りつけられるのである(断言してしまっていいのだろうか)。

 これらで一杯やりながら、「ゆで卵に腐乳とかアミの佃煮なんてのもいいかもしれない」などと考える。ビンボーオードブルの構想はどこまでも広がるのである。
まあ、気楽な仲間と飲む時は、色々載っけるもののアイデアを出し合いながら、こんなことをやるのも楽しいだろう。
 ただし「彼女を部屋に呼んでプロポーズを」なんて時に、こんなものを出すと殴られるかもしれない。

今週のおさむらいちゃん

新作18

1週間さぼって55歳の誕生日に描いた記念すべき1本のわりにはナンと言うか、まあ、人生そんなもんだろうみたいなところです。