みなさまと共に歩む…… (*個人的な感想です)

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おさむらいちゃんだよーん!

新作52

構想数週間 (その間、ちがうこと考えた)の壮大なる4コマまんがでござる。
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社長の業務:ショートストーリー『ロバのパン屋』

社長1  畑の中の道を、ロバが車を引いて歩いている。ロバが背負っている雲は、もう夏が近いことを告げている。
 車は普通の荷車だが、屋根がついていて緑色のペンキが塗られている。屋根の横っ腹には花文字で『ロバのパン屋』と書いてある。屋根の後ろの方にはベルがくっついていて、荷車が揺れるにつれ、からんからんと音を立てる。それを聞くと、村の子供達は「ロバが通る、ロバが通る」と言って走り寄ってくる。おかみさん達もパンを買いにやってくる。
 このパンは、ロバ自身が粉をこねて、焼き上げるのだ。ロバという動物がいかに賢いかわかるだろう。

 だが、今日のロバは心配事を胸に秘めているような顔つきだ。
(ロバに心配事なんかあるものかって? そりゃ、ロバにだって心配事も悩み事もある。嘘だと思ったら、その辺にいるロバに聞いてみるがいい)
「おい、どうしたんだ、ロバ。浮かない顔つきでねえか」
 そう話しかけたのは、向こうから鍬を担いでやって来た百姓のトム・土左衛門だ。ロバはこう答えた。
「うん。おらのご主人様がどっか行っちまって行方不明だ」
(ロバが言葉を話すわけがないだって? そりゃ、ロバだって言葉くらい話すさ。嘘だと思ったら、その辺にいるロバに聞いてみるがいい)
「おめえのご主人? ああ、あの怠け者のマイケル・抜け作か。あんな役立たず、いなくたって困らねえではねえか。パンを作るのも売るのも、おめえが一人でやっているんでねえか」
「でも、おらのご主人であることに変わりはねえだ。なあ、トム、ご主人様を見つけたら、おらに知らせてくんろ」
「ああ、わかっただ。おめえのパンには村の者が、みんな世話になっているからな」

 ロバと別れて歩き出すと、トム・土左衛門は、こりゃロバのために一肌脱いでやらなきゃと思った。
 なにしろ、この村では米も麦も野菜も取れない。取れるのは、ヤマモハケローという植物だけで、これは実はまずいし、葉は苦いし、繊維から糸が紡げるわけではなし、引っこ抜こうとすると大声で呪いの言葉を叫ぶという、どうにもしょうがない作物なのだ。だから、人々は食べ物をロバのパンに頼っているのだ。

 すると、向こうから商人のルイス・伝兵衛が歩いてきた。
「ヘイ、ルイス」
「ハロー、トム」
「ルイス、儲かってるべ」
「何を言うか、トム。おめえらの作るヤマモハケローを全部買い上げては町の市場に運んで売るだが、ひとっつも売れやしねえ。お前たちのお陰で、毎年、大損だ」
「まあ、そのうちいいこともあるべ。あの呪いの言葉をみんな好きになるとかな・・・ところでルイス、マイケル・抜け作を見なかったか」
「いや、見ねえな」
「パン屋のロバが心配して捜しているだ。見かけたら知らせてやってくれ」
「ああ、わかった」

 トム・土左衛門と別れたルイス・伝兵衛が歩いていると、向こうから自転車に乗った郵便配達のジャン・ピエール五郎太がやって来た。
「おい、ジャン・ピエール、いやに慌てておるな」
「いんや、おら、この手紙を配達しなきゃいけねえんだが、どこの家だかわからねえで困っとる」
「宛先はどこだ」
「ロンドンとしてある」
「そりゃ、遠い。外国だ」
「外国というと、この村にあるだか」
「いんや、もっと遠いな」
「町の方か」
「いんや、もっともっとだ。なんぜ、外国だからな。まんず、馬車に乗って駅のある町まで行って、汽車に乗って港のある町まで行って、船に乗っていかねばならねえな」
「今日中に行って帰ってこられるだろうか」
「まあ、行ってみねえとわからねえな。なんせ外国だから。そうだ、そんなに遠くまで行くんだったら、途中でマイケル・抜け作を見かけたら、ロバが捜しておったと伝えてくんねえか」
「そりゃま、いいが、はてさて、えらいことになったもんだ」

 ルイス・伝兵衛と別れたジャン・ピエール五郎太は、船に乗るのは大変だから、自転車で行くことにしてこぎ始めたが、向こうから脱獄囚のフョードル・ミハイロヴィッチ・杢兵衛が囚人らしく大きな赤い縞の入った服を着て、走ってくるのに出会った。
「おう、フョードル・ミハイロヴィッチ、今日も逃走か、大変だな」
「お、おらの後ろを警察が追い掛けてこねえか」
「うんにゃ、何にも見えねえ」
「そうか、おら、捕まったら首刎ねられるからな」
「おめえは、いつも追い掛けられると言ってるが、その追い掛けている警察ちゅうものの姿を見たことがねえ。本当に追い掛けられているのか?」
「あったりめえだ。おら、正真正銘の脱獄囚だ。警察に追い掛けられない脱獄囚だなんて、恥ずかしくて世間に顔向けが出来ねえ」
「そうかなあ。駐在のガルシア・マルケス・留っこは、さっき駐在所で昼寝こいとっただが。まあ、いいや。おめえ、そうして村中を走り回っているんだったら、マイケル・抜け作を見たらロバに知らせてやれ。いなくなったと言って捜しているらしいから」
「ん? あの役立たずのマイケルか?」
「脱獄囚に役立たずと言われるようになっちゃ、おしめえだな」
「マイケルだったら、西の丘の上で昼寝しておったぞ」
「そうか。じゃあ、ロバに会ったら、そう言ってやるといいだ」

 さて、ジャン・ピエール五郎太と別れたフョードル・ミハイロヴィッチ・杢兵衛が歩き出すと、折しも向こうからロバが荷馬車を引いて歩いてくるのが見えた。
「おーい、ロバ」
「やあ、フョードル・ミハイロヴィッチ」
「ちょうどいい。お前が捜しているマイケル・抜け作だがな。西の丘で昼寝をしておったぞ」
「ん?」
「お前のご主人のマイケル・抜け作は、西の丘で昼寝をしとったんじゃ」
「誰じゃ、それは」
「おめえ、捜しているんじゃなかったのか」
「覚えてねえな」
 ロバという動物は、ここまでの話でわかるように、とても利口だ。誠に賢い。
 だが、唯一の欠点は、非常に忘れっぽいということだ。(嘘だと思ったら、その辺にいるロバに聞いてみるといい) 

社長の業務:ショートストーリー『いいことをするのは難しい』

社長  空も、森も、その湖も宝石のような底深い光りを湛えていた。全ては美しかった。
 大切なものを失った俺は、もはや生きる意味を見出し得ず、ここに来てしまった。
 この湖は、その外観にもかかわらず死の湖として知られている。湖岸から水の中に入っていくと、どこまでも遠浅のように思われるのだが、不意に、まったく不意に深い亀裂に足をとらわれる。そして、人はそのまま奥の方まで沈み込み、不思議なことに死体が二度と浮かび上がってこないのだという。
 死の観念に取り憑かれた人間が、その最後の場所にするため訪れる、そういう湖なのだ。

 ふと前を見ると、湖畔に若い女が一人佇んでいるのが見えた。
 きちんとした身なり、整った顔立ちだがその横顔は青ざめて見えた。湖の色が映えているようでもある。
 彼女もまた、若くして死に取り憑かれた人なのだろうか。
 ふと俺は、ひとつくらい、いいことをしてから死んでも遅くはないように思った。その若い命に、再び生きる力を吹き込んでから、俺は俺の道を行く。
 それは、くだらないものだった俺の人生の最後に少しだけ灯る蝋燭の光りのようなものだと思えた。
 俺は、女に声をかけようとした。

「もしもし、こんなところで何をしているのです」
 声をかけようとしたら、後ろから声をかけられた。振り向くと、墨染めの衣を着た若い僧侶が立っていた。
「話しかけないで下さい。私にはやらなければいけないことがあるのです」
 と俺は答えた。こんな坊主と話をしている暇はない。彼女を救わねばならぬのだ。
「もしかして、あなたは死のうとなさっているのではありませんか」
 と僧侶は言った。
「それはそうですが、お坊さんと話をしている場合ではないのです」
「死に急いではいけません。私は、近くの寺のものですが、この湖が自殺の名所になっているという噂を聞いて、少しでも人々の力になれないかと思って、時々ここへ来ているのです。今日は、あなたに会えてよかった。さあ、私に話してご覧なさい。どうして、死にたいなどと思ったのですか」
 ふと、この坊主をあの女の方へ差し向けて、俺は死んでしまえば、坊主も満足、女も救われるのではと思いかけたが、
(それでは、俺はどうなる。人生の最後に人を救って上げてから、気持ちよく死に赴くというのが俺のプランではないか)
 俺は、僧侶を振り切るように、女の方へ向かって走り出した。
「お待ちなさい!」
 坊主も追い掛けてくる。衣を尻っぱしょりをして、生白い脛をあらわにしながら走ってくる。しかも意外に速く、俺は追いつかれてしまった。
「逃がしませんぞ!」
 女が湖に向けて歩き出すのが見えた。こんなことをしている場合ではない。彼女が死んでしまうのではないかと気が気ではなかった。
 すると、向こうの森から、髭面の山仕事をしているような大柄な男が出てきて、女の方へ向かって歩いてきた。
「なんだ、あいつは」
「そんなことはどうでもいい。あなたが死のうと思うわけをお話しなさい」
 坊主は俺をがっちり羽交い締めに固めてしまった。一方、大きな山男は女の傍らに来て何か話しかけている。
「なんてこった。あいつが彼女を救ってしまったら、俺の計画は水の泡だ」
 俺は坊主を振り払った。すると、今度は足にタックルしてきて、俺は転がされてしまった。さらに俺に馬乗りになって、首を絞めてきた。
「さあ、話すんだ!」
「は、話すものか」
「話さないと命はないぞ!」

 風に乗って、山男と女の会話も聞こえてきた。
「お嬢さん、この辺に斧が飛んでこなかったかね。おら、森の中で木を切っていたんだが、手を滑らせて斧を飛ばしてしまっただ」
「さあ・・・」
 死を決意した人に向かって、なんという無神経な話しかけ方だろう。走っていって、山男に意見してやって、併せて女を説得してやりたかったが、それには、この坊主をなんとかしなければならない。
「放せ」
「あんたが死ぬわけを聞くまでは放すものか」
「じゃあ、言えば放すのか」
 その時、湖の方で声がした。見ると、湖のまん中に光りの柱が立っていて、その中に金髪の女がいた。
「あなたが落としたのは、金の斧ですか。銀の斧ですか」
 俺はあっけに取られて見ていたが、坊主はまだ、
「さあ、話せ。話すんだ」
「ちょ、ちょっと待て。そんなことより、あの湖の上にいるのは誰だ」
「どうせ湖の女神か何かだろう。そんなことはどうでもいい」
 俺にとっては驚嘆すべき超常現象なのだが、この坊主はあまり気にならないらしい。

 山男ののんびりした声が聞こえてきた。
「うんにゃ、おらの落としたのは金の斧でも銀の斧でもねえだよ」
「銅の斧ですか、アルミの斧ですか、ステンレスの斧ですか」
「いんや、普通の鉄の斧だ」
 女神はしばらく黙っていた。が、
「プラスチックの斧ですか・・・」
「鉄の斧はないんかね」
「・・・・・・あなたが落としたのは大きな葛籠ですか、小さな葛籠ですか」
「話題を変えるでねえだよ」 

 突然、俺達の後ろの方から、スピーカーの雑音を通した声が鳴り響いた。
「さあさあ、一号車から五号車のバスの人は、こっちへ来てください。六号車から一〇号車の人は、あっちへ行って」
 老若男女、いろとりどりの服装の集団がぞろぞろ歩いてくる。
「なんだ、ありゃ」
「ここが自殺の名所だというんで、物好きな観光客がバスを仕立てて見物に来るんだよ」
 でかい音で、悲しげなような楽しげなような妙な音楽が流れてきた。そちらの方を見ると屋台の店が並んでいる。
「さあさあ、神秘の湖名物、自殺まんじゅうにあの世せんべいはいかがかな」
「皆さん、これが落ちると浮かび上がってこれない、不思議な湖ですよ。記念に絵はがきをどうぞ」
「記念写真撮ろうぜ。はい、チーズ」
「ピース、ピース」
 とんでもない騒ぎになってきた
「あなたが落としたのは、大きな財布ですか、小さな財布ですか」
「だから、鉄の斧はないんかね」
 女神と山男は、まだやっている。なんと、その横では例の女がみたらし団子を食べている。屋台の売店で買ったものらしい。これから自殺しようとする者の態度として、いかがなものか。不謹慎ではないか。

「あれ、こんなところに、坊さんと男の人が倒れている」
「どうした、どうした」
 ついに俺達は、観光客に囲まれてしまった。
「皆さん」
 坊主は立ち上がって、人々に向かって言った。
「ここにおられる男の方は、今日、自殺をしようと思って、ここへ来たのです」
 うおーっという歓声が上がった。
「本物の自殺を見れるとは」「こりゃ、運がいい」
「皆さん!待って下さい。私は、ここで、このような気の毒な方を救おうとしている僧侶なのです」
 さっきに数倍した喧しさになった。自殺を見たいという者と救われるところを見たいという者が言い争いを始めたのである。
「皆さん、どちらにせよ、この方にここへ来た理由を話してもらうべきではないでしょうか」
「そうだ、そうだ」
 坊主を先頭にした群集が俺に迫ってきた。未だ味わったことのないような恐怖だ。
「わかった、話すから、それ以上来ないでくれ・・・俺は人生でもっとも大切な者を失ったのだ」
「それは何でしょうか。家族でしょうか、お金でしょうか、名誉でしょうか」
「言わなきゃいけないのか」
「言って下さい」
「では仕方がない・・・ペットの・・・ペットの象の花子が逃げ出してしまったのだ」
「象?」「象を飼うことが出来るのか?」「象なんて、でかいものが見つからないのか?」
「本当だ。ありのままを話しているんだ。嘘じゃない」
 すると、湖の方から女神の声が聞こえた。
「あなたが落としたのは、象の花子ですか、カバの太郎ですか」
「だから、普通の斧だって言っているじゃねえか」

 意外なことに、象の花子は湖の女神のところにいたのだ。俺は死ぬ理由がなくなった。
 満足した僧侶と観光客は帰っていった。屋台の売店は撤収した。
 鉄の斧は山男の前に落ちてきた。あまり高く飛んだので、落ちてくるのに時間が掛かっていたのだ。満足げに斧を担ぐと、仕事の続きをしに森へ入っていった。女神は一件落着したので、湖に姿を消した。

 そして・・・あの女が、みたらし団子を食べながら、湖から離れて道路の方に歩いていくのが見えた。
「女を救ったのは、みたらし団子だったのかもしれない・・・」
 俺は、花子と並んで立ちつくし、女の後ろ姿を見送っていた。 

社長の業務:『暗くて楽しいバスツアー』

社長1  なんでこんな広告に気を引かれたのだろう。
「ホリデー・ミステリー・バスツアー 次の休日、あなたはやることがありますか? 行くところがありますか? 一緒に出かける家族がありますか? 恋人がいますか? 友達がいますか? ・・・なにもないあなたに、ミステリー・バスツアーはいかがでしょう。行き先は、着いてみなくてはわかりません。考えるのが嫌いなあなたにぴったり。全ては私どもにお任せ下さい」
 いったい何に惹かれたのかと言えば、すべて俺に当たっていたことだ。まるで、俺個人に向けられたような広告だ。気がつくと、ネットで申し込みを済ましていた。

 その日曜日、天気は上々だった。ちょっと楽しみなような不安なような気持ちを抱いて、集合場所に向かった。
 こんなバスツアーには、どんな人が集まるのだろう。可愛い女の子とかも来るんだろうか。
「俺と同じような人間だとしたら、そんな子が来るわけないだろう」
 急に気持ちが暗くなった。
「しかし、つき合う相手もやることもないけど、可愛い女の子というのも考えられないわけではない」
 うすうす無理だと思っても、自分を浮き立たせるために、そう考えてみる。

 集合場所である駅前のロータリーに着くと、ツアーの団体らしい人達は見あたらない。それどころか、観光バスも見あたらない。
「来るのが早すぎたかな」
 そう思って時計を見てみると、早すぎたどころか5分過ぎている。
「ういっす」
 陰気な声が聞こえたので顔を上げてみると、俺の前に、その声に相応しい男が立っていた。
 いかにも安物そうなパーカーとジーパン、若いんだか年取っているんだかわからない顔立ち、猫背でがに股・・・俺そっくりだ。俺が痩せているのに比べて向こうは太り気味だが。
「ミステリー・バスツアーにようこそ」
 あまり歓迎しているとは思えない口調で、決まり文句らしいのをぼそっと言う。
「じゃあ、あんたが」
「はい。俺、ツアコンっす」
 なるほど、白地に赤と青の縞が入って緑色で「ミステリー・バスツアー」と書いた、あまり趣味のよくない旗を持っている。
「他の人は」
「お客さんだけっす」
 一人だけでバスツアーって成立するのだろうか。人数が足りない場合は中止とかいうのが普通じゃないか。
「バスはどこにあるんだ」
「これっす」
 と、一枚のカードを渡された。そこには、
「○○市営バス 一日乗り放題乗車券」
 と書いてあった。
「おい、こんなバスツアーがあるのかよ」
「市営バスだって、バスっすよ。お客さんは行き先知らないからミステリー・バスツアーっす」
 言われてみればそうだ。市営バスがバスでないという人はいないだろうし、俺に「行き先わかってんのか」と迫られれば一言もない。論理の破綻はない。
 何故だか、俺は感心してしまった。

 俺の前には緑色をした金属のネットがある。並んで立っているツアコンは、そのネットに寄りかかって、
「あのショート、うまいっすよね」
「知り合い?」
「いや、知らないっす」
 駅前のバス停から15分ほど乗って降りたところは、市営運動公園だった。その中の野球場のバックネット裏に立っている。
「これ、どこのチーム?」
「さあ、市内の草野球チームっすね」
「なんで、おれ達、これを見ているの?」
「いけませんか」
「いや」
 そう言われると、確かに今日、おれ達がここで草野球を見ていて悪いという理由はない。(いいという理由もないが)
「あ、エラーだ。あ、こりゃあ、一点入るなあ」
 陰気な声でそんなことを言う。盛り上げようとしているんだか、なんだかわからない。
「このランナー、結構足速いよね」
 俺まで、そんな感想を述べる。
「あ、駄目だ、バッターランナー、欲張りすぎ」
「あああ、挟まれちゃった」
 一応、二人で盛り上がる。結局、一イニングの表裏を見た。得点は例のエラーによる一点だけだった。

 俺は、ミニ牛丼とうどんのセットを食っていた。派手な色のテーブルの向こうで、ツアコンは大盛りカツ丼と大盛りラーメンを食っている。太っているだけによく食う。
 さっきの球場からバスで五分ほどのショッピングモールの中のフードコートである。広い空間に変な色合いのテーブルと椅子が並び、その周囲を外食のチェーン店が取り囲んでいる。日曜の昼時だけあって、混んでいる。
「ガキ共、うるせえんだよな」
 他の家族連れを見やってツアコンは、汗だらけの顔で毒づく。そうかと思うと、カップルの方を見て、
「別れちまえ」
 と呪いの言葉を吐く。
 どうも、このツアコンは飯を食っていると機嫌が悪くなるらしい。汗のかきすぎだと思う。

 ショッピングモールの前庭のベンチに二人並んでいた。俺は缶コーヒー、ツアコンはプラスチックのカップに入った毒々しい色の飲み物を飲んでいる。
「お客さん、仕事、忙しいっすか」
 時々、思い出したように話しかけてくるのは、これでも気を使っているのだろうか。
 俺は、職場のいやな上司の話をした。話しているうちにもムカついてきて、思わず口調がきつくなる。
「パワハラかあ」
 とツアコンは、空を見上げていった。アザラシか何かが吠えているところを思い出した。
「実は、俺も前の仕事、それで辞めたんすよ・・・ちくしょう、あの糞オヤジ・・・」
 何か思い出したらしく、靴のかかとで地面を蹴った。そして、また目を上げると、その先にはカップルが歩いていた。
「別れちまえ!」
 ツアコンは呟くように言った。

 ショッピングモールをぶらついてから、さらにバスで10分ほど、市立中央公園という広い公園に来た。
「この市もセコいのに、この公園だけは立派っすよね」
「あんたも、この市に住んでるの?」
「いや、昔・・・」
 しばらく、芝生の上にごろんと転がって、黙って空を見上げていた。
「あ、飛行機だ」
 と、ツアコンが言った。なるほど、小型機がぼんやり飛んでいた。
「お客さん、飛行機って乗ったことありますか」
 俺は西の方の出身なので、帰省に使ったことはある。
「俺、ないんすよね」
 と、ツアコンは言った。さらに、
「お客さん、外国って行ったことありますか」
 それはなかった。
「俺もないっす」
 それはそうだろう。飛行機に乗ったことがなければ、船旅しかないということになる。
「外国なんて、何がいいんだろうなあ」
 なんだか、不満そうに言ってから、付け加えた。
「もっとも、日本だって冴えねえけどな・・・お客さん、ビールでも飲みませんか」

 ビアレストランにでも連れて行ってもらえるのかと、ちょっとだけ期待した。だが、向かったのは公園内の売店の前のベンチだった。
 缶ビールと袋菓子を買って戻ってくると、
「あ、いいっす。これはツアー料金内っす」
 と言って、プルトップをぷしゅっと開けて、俺に渡してくれた。これもサービスのつもりなのだろうか。
「ああ・・・」
 と、一口飲んで溜息をついたかと思うと、また、別のカップルを見つけて、
「別れちまえ」
 と呟いた。恋人達を見ると、自動的にこういう反応をするらしい。
 まるまるとした手でポテトチップを掴んでは、口に押し込み、あたりの人々を見ては不満そうに口を歪め、ビールを一口飲む。
 缶が空になると片手で握りつぶし、黙って立ち上がり、俺の分も追加を買ってくる。
 三本ほど開けたところで、
「あー」
 とツアコンは声を上げた。
「日本は戦争するのかなあ」
 と脈絡もなく言った。
「最初のうちは、若いやつが軍隊に取られるだろうから心配ないっすけどね。前の戦争の時は負けがこんでくると、30代のヤツも取られたらしいんすよ。鉄砲の撃ち方とか、ちょっとだけ訓練受けて。そうなると、やばいよなあ」
 そういうことで言えば、俺もやばいことになる。
「実際、敵に撃たれて死んだよりも、飢え死にしたりマラリアにかかって動けなくなって死んだりした方が多いらしいんすよね」
 なんだか、俺が考えたこともないようなことを知っている。
「今晩も部屋に帰って、テレビ見ながらチューハイ呑んで弁当食って寝るだけっす」
 脈絡もなく、そんなことを呟く。
 
 夕方、元の駅前に帰ってきた。
「はい、ご苦労さんした」
 そういうと、ツアコンは俺に旗を渡した。
「じゃ、あとは、よろしくお願いっす」
「なんだ、こりゃ」
「来週は、お客さんがツアコンやるんすよ。HPに書いてあったっしょ。メールで申し込みが来たら、今日と同じようにやって下さい。じゃ」
 それだけいうと、ツアコンは駅の人混みの中に姿を消してしまった。
 
「あのショート、うまいっすよね」
 翌週、俺は市営運動公園の野球場のバックネットに凭れて、となりにいる冴えない顔色の男に話しかけていた。
 やはりよく晴れた日曜だった。
  

社長の業務:『不条理落語集』

社長1 1
八:大家さん、大家さん。
大:なんだい、八っつあんじゃないか。まあ、お入り。今日はどうしたい。
八:いえ、どうしたってわけじゃねえんですが、閑なもんですから。
大:そうかい。まあ、ゆっくりしておいで。
八:大家さん。
大:なんだい。
八:苦しくありませんか。
大:ここは海の中だからな。
八:出ませんか。
大:そうしようか。


八:大家さん、大家さん。いねえんですか、大家さん。留守なのかなあ・・・あ、なんだ、そんなところにいたんじゃありませんか。いるんなら、何とか言って下さいよ。そんなところで、黙ってじっとしていると、びっくりするじゃありませんか。
 いやね、今日は大家さんに聞きてえことがあって来たんですよ。それというのが、うちにいる娘っ子、あいつがどうしたもんか、百人一首ってのに凝っちまいましてね、あっしに「千早ぶる神代も聞かず竜田川唐紅に水くくるとは」てえ歌の意味を聞きやがるんですよ。
 ねえ、こっちはそんなこと知りませんからね・・・・・・。
 大家さん、大家さん、どうしたんですか。なんか、だんだん小さくなっていきますね。遠ざかっているんですか。ちょっと、大家さん、そんなに小さくなると見えないじゃありませんか。大家さん、どうしたんですか。ちっちゃくなって、きらっと光って、くるりと回って、消えちまった・・・。
 ・・・あれ、本当に大家さんだったのかなあ。


八:大家さん、ちょっと見て下さい。変なものがいますよ。
大:なんだって? 八っつあん、どれだい、変なものてえのは。
八:これですよ、これ。
大:あ、本当だ。こりゃあ、変だ。
八:変でしょう。
大:実に何というか、変だな。
八:これは、いったい何なんでしょうねえ。
大:見たこともない物だから、名前もないんだろう。
八:名前がないってのも不便ですねえ。おいらが付けちゃいけませんかね。
大:誰も見たことがないんだから、文句が来る気遣いもないな。
八:じゃあ、付けちまいましょう。そうだなあ、「ぺんでろのそろそ」ってのはどうですかねえ。
大:なんだって?
八:ぺんでろのそろそ、ですよ。
大:おい、八っつあん、これのどこが「ぺんでろのそろそ」なんだい?
八:どこがって、好きに付けていいんでしょ?
大:お前さん、いくら好きに付けてもいいからって、後の人のことを考えなくっちゃいけないよ。名は体を表す、というくらいで、いかにも、それらしい名前を付けなくちゃいけない。
八:駄目ですかねえ。
大:だいだい、これのどこが「ぺんでろ」だ? なにが「のそろそ」だ?
八:じゃあ、どうすればいいんです?
大:うん、まあ俺の見るところでは、これは「すげれくもんだら」だな。
八:それが名は体を表しているんですか。
大:そうとも、八っつあん、よくごらんよ。こっちの方、この形、「すげれく」じゃないか。
八:まあ、そう言われるとそんな気もしてきますねえ。
大:そして、こっちの方は、どう見ても「もんだら」だ。
八:不思議なもんですねえ。そう言われると、確かに「もんだら」だ。
大:これすなわち、名は体を表す、だ。
八:へえ、するってえと、なんですかい、あっしの名前なんかも、名は体を表しているんですかね。
大:もちろんだとも。お前さんの、この頭の方なんかは「はっ」っていう感じがするだろう。
八:ふうん、そんなもんですかね。
大:それが腹、腰、足のあたりは「つあん」としか言いようがないな。あわせて、八っつあんだ。
八:へえ、大家さんは物知りだ。
大:まあ、世間に長くいると、これくらいの知恵はついてくるもんだよ。
八:なるほどねえ・・・あれ、「すげれくもんだら」が動き出しましたよ。
大:ああ、動きようが、いかにも「すげれくもんだら」という感じじゃないか。
 すると、そのすげれくもんだらというヤツがひと言、「違う」といいました。
八:大家さん、すげれくもんだらが何か言いましたよ。
大;すげれくもんだらが口を聞くとは知らなかったな。
す:違うのじゃ。我は、すげれくもんだらにあらず。
大:随分、横柄な口を聞くねえ。じゃあ、お前さん、なんだってんだ。
す:我は、先の天下の副将軍、水戸光圀なるぞ。
大:まさか。
水:まさかではない。余は、先の天下の副将軍、水戸光圀じゃ。
八:大家さん、そう言われてみると、なんだか先の天下の副将軍、水戸光圀に見えてきましたぜ。
大:そう言えば・・・うーむ、名は体を表すとは本当だな。
水:さよう、余は先の天下の副将軍、水戸光圀。
八:もう、これは天下の副将軍、水戸光圀にしか見えません。
大:ああ、まったくだ。天下の副将軍、水戸光圀公じゃないところが、ひとっつもないな。さっきは、なんですげれくもんだらに見えたんだろう。
水;まあ、よかろう。間違いは誰にもあるものじゃ。
大:誠に申し訳ございません。天下の副将軍、水戸光圀様、知らぬこととはいえ、無礼の段、平にご容赦下さりませ。
水:わかればよい。今回は、相許す。以後、このようなことがなきよう、注意いたせ。
大・八:ははー。
 それだけ言うと、天下の副将軍、水戸光圀公は、真っ黒な背中のコウモリのような羽を羽ばたかせ、鋭く尖ったくちばしから「きえーっ」という声を上げたと思うと、真っ赤な目をらんらんと輝かせて、夕焼け空へ向けて飛んでいってしまいました。
大・八;うーん、さすがは天下の副将軍、水戸光圀公だねえ。




プロフィール

文豪堂

Author:文豪堂
いらっしゃいませ。中川善史(自称社長)と金井哲夫(自称編集局長)が2人でしこしこ書いているふざけた電子書籍本を販売する「蕪」式会社文豪堂書店です。(社名は予告なく変更することがあります) (なおこれは個人の感想です)(効能を保証するものではありません)(おだてると調子に乗ります)

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