みなさまと共に歩む…… (*個人的な感想です)

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ショートストーリー『アラジンくんと古い魔法のラムプ・幽閉された姫の巻』

よ(前回までのあらすじ:大富豪だったアラジン和雄くんは、だまされて財産を巻き上げられてしまい、ただ一つ、手元に残った魔法のランプとともに旅をしているのでした)

 いつの間にか、和雄くんは黒い森に迷い込んでいました。もう少し行けばなんとかなるだろうと思ったら、もっと森になりました。さらに進むと、さらにさらに森でした。なんというか、もうどうしようもないくらいに森でした。すごく森でした。ひどく森でした。
 和雄くんも、「森だなあ」と言うしかありませんでした。

「おい、魔法使い」
 と和雄は魔法のランプに呼びかけました。
「はい、お坊ちゃま」
 と、答えて出てきたのは、年老いた魔法使いでした。
「おまえ、ちょっと空を飛んで、何か見えないか、見てきてくれないか」
「お安いことでございます」
 森の一番高い木の一番高い梢の一番高いところにある葉っぱをすり抜けると、お日様に照らされた森がパセリ畑のようにどこまでも広がっていました。ただ、その真ん中あたりに、高い塔が、赤い帽子のような屋根を、にょっと突き出させていました。

「塔があるということは、誰か住んでいるということだね。じゃあ、そこで、ご飯を食べさせてもらおう」
 と、和雄は魔法使いの報告を聞いていいました。
「食べ物を恵んでくれるような優しい人だといいのですが」
「なに、世の中、そう悪い人ばかりじゃないさ。親切な人がいっぱいいるよ」
 全財産をだまし取られるというひどい目に遭っていながら、人を信じることを忘れない和雄を見ると、魔法使いは、なんだか心配になると同時に、心の底が暖かくなってうれしくもなってくるのでした。

 二人は塔の下にやってきました。ですが、どこにも入り口が見つかりません。困っていると、上の方から美しい歌声が聞こえてきました。
「私はとらわれの姫 悪い魔女にさらわれて 塔に閉じ込められている 白馬の騎士よ 私を救いに来て・・・」
 見上げてみると、上の方にたったひとつだけ窓があって、輝くばかりの金色の髪をしたきれいな女性が歌っているのでした。
「おお、あの姫が歌っているのだね。なにやらわけがあるらしい。魔法使いや、ちょっとあの窓へ行って、あの方のお話を聞いてきておくれ」
 魔法使いは煙のようになって、窓のところまで行きました。
「お姫様。私は、アラジン和雄という方の召使いのランプの精なのですが、今、お坊ちゃまがあなたのお歌を聴いて、大変感動されたのです」
「ああ、すると、あの下にいらっしゃる立派なフロックコートを着た若い紳士がその和雄さんですのね。私は歌の通り、ある王国の姫なのですが、悪い魔女に誘拐されて、この塔に幽閉されてしまったのです。私を救ってくださった方の、お嫁さんになりますわ」
「なるほど。では、お坊ちゃまに、その事情を伝えてきましょう。少しお待ち下さい」
 魔法使いは下に行ってしまいました。
 それを見て、美しく可憐な姫は塔の中に入りました。そして、
「ふん」
 と言うと、可憐さは消えて、なにやら残忍そうな表情が浮かびました。
「おい、魔女。さっきの歌、ちょっと狂ってたじゃねえか。あたしが歌っているんじゃないってことが、ばれたらどうするんだよ」
 と言って、手回し蓄音機のそばにうずくまっていた老いた魔女に蹴りをくれました。
「ひい」
 と、魔女は悲鳴を上げました。どうやら、さっきの歌は魔女が回す蓄音機から流れていたもののようです。
「お、お許し下さい。暴力反対・・・ああ、うっかり昼寝をしていたところを、この不良少女に魔法の杖を奪われたばかりに、こいつの言うことを聞かなければならなくなってしまった。一生の不覚じゃったわい」
 そうなのです。
 今、魔女が説明的なセリフで説明したように、この娘は姫でもなんでもなく、たまたま魔法の杖を手に入れ、魔女を奴隷扱いしているだけだったのです。
「うるせえな。ここでこうして歌っているフリをしていれば、どっかの王子様が救いに来るんだよ。そいつをとっ捕まえて結婚しちまうまで、お前はあたしの奴隷だよ」
 なんという恐ろしい計画でしょうか。和雄はニセ姫の計略に引っかかってしまうのでしょうか。

「お待たせしました」
 また、ランプの魔法使いが窓にやってきました。
「お坊ちゃまと慎重に検討しましたところ、私と魔女が魔法合戦をして、勝ったらお姫様をいただくということにしたいと存じますが」
「結構ですわ」
 ニセ姫は答えながら、魔女の方をじろりと睨みました。
「へ、へえ、私はなんでもようございます」
 魔女は慌てて答えました。

 さあ、魔法合戦の始まりです。まず、魔女は空中に岩を出現させました。岩が、和雄とランプの魔法使いめがけて襲いかかってきます。
「なにをこしゃくな」
 魔法使いは対抗して、空中に巨大なハサミを出しました。
「これで、岩など切ってしまうぞ」
「おい、魔法使い。石とハサミでは、ハサミが負けるんじゃなかったっけ」
「ありゃー。お坊ちゃま、私の不覚でございます」
 なるほど、岩を切ろうとしたハサミは、逆に刃こぼれをしてしまって、キャインキャイン、と泣きながら何処かへ行ってしまいました。
「ハサミがだめなら、これだ」
 魔法使いは、空中に大きな紙を出現させました。
「石には紙、というのがジャンケンの定石でしたな。和雄坊ちゃま」
「それなんだけどね」
 と、和雄が答えます。
「紙は石を包むから勝ちだって言うんだけど、昔からヘンだと思っていたんだ。包むくらいで勝てるのかね。破けちゃったら、どうするだろう。石対ハサミ、ハサミ対紙は納得できるんだけど

 空中では紙と岩の戦いが続いていましたが、紙が岩を包むことに成功しました。
「包みましたぞ」
「大丈夫なのかなあ」
「あ、岩が苦しんでおります! 包まれて苦しんでおります!」
 岩は紙の中で、もがいているようでしたが、やがて静かになりました。
「おお!」
「伝説の通り、紙が石に勝ったぞ。包み殺してしまったらしい!」

 約束通り、ニセ姫は和雄のお嫁さんになることになって、魔女がホウキに乗せて、下の和雄達の所へ降りてきました。
「ああ、どうぞ、結婚でも何でもして下さい」
 と魔女は、せいせいしたように言いました。ところがニセ姫は、
「ありゃ。なに、この貧乏くさいフロックコートは」
 そうです。高い塔の上から見たときは立派なフロックコートに見えたのですが、近くに来てみると、あちこち擦り切れかかった、くたびれたコートなのでした。
 和雄が、自分が騙されて財産をみな取られてしまって、ご飯を恵んでもらうために塔に立ち寄ったことを話すと、ニセ姫はさんざん悪態をついた上で、
「婚約解消! 誰が、こんな乞食と結婚するかよ。おい、魔女、もう一度、あたいを塔の上に連れて行くんだ。本物の王子様が来るまで、網を張り続けにゃならん」
「ひいいい」
 魔女は、泣き出しました。
 
その時です。

空中で紙に包まれていた岩がニセ姫の上に落ちてきました。

 ニセ姫は潰されて死んでしまいました。
 
魔女は、二人に何度もお礼を言うと、ホウキに乗って、何処かへ行ってしまいました。

 二人は、また森の中、旅を続けました。
「ご飯、恵んでもらえなかったね」

(たぶん、次回もアラジン和雄くんの話です)

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ショートストーリー『アラジンくんと魔法の古いラムプ』

社長1 春とは言え、まだ寒い。畑の上を、時折、びゅんと風が吹き抜けて、向こうに薄霞んで見える山へと駆け上っていくのでしょう。
 路傍の木の下に寝ていた若者が一人。突然に、風に気がついたように跳ね起きました。
「う、寒い」
 この青年、というより少年といった方がいい若者。なぜか、フロックコートに山高帽という姿であります。仕立ては英国製の上等品ですが、かなり古びております。
「夕べは、宮殿の奥の天蓋付きのベッドで寝たはずなんだがなあ」
 そう言って彼が見下ろしているのは、地面の上に転がっている・・・なんというのか、銀座あたりのちょっと高めの食堂でライスカレーなんぞを注文しますと、飯の皿とは別に、銀の取っ手付きの食器にカレーを入れて持ってきますが、ああいった感じのものにぽっち付きの蓋をかぶせたような形の・・・といっても、おわかりになりますまい。
 ええい、めんどくさい。魔法のランプなのであります。アラビアンナイトにでも出てきそうな、金のランプ。もっとも、古いものらしく、かなりくすんでしまい仏壇の奥に置いといても、そう違和感はない、という代物。
「おい、魔法使い、出てきて話し相手になっとくれ」
 若者がランプに向かって言いますと、その口からもくもくと煙が出て、アラジンと魔法のランプそのものといっていいような、頭にターバンを巻いた色の浅黒い魔法使いが出てまいりました。
 しかし、この魔法使い、髪も髭も真っ白、顔は皺だらけ、胸にはあばらが浮き出ているという老いさらばえた姿。しわがれた声で、
「和雄お坊ちゃま、お召しでございますか」
「うん。昨日、僕が寝ていた宮殿、どうなっちゃったのかねえ」
 すると、魔法使い、苦々しい顔をして、
「和雄お坊ちゃま、あれは、私が魔法で出しました幻ではございませぬか。とっくに消え失せてしまいましたわい」
「幻でもいいが、もう少し長持ちしないものかね」
 すると、情けなさそうな顔をして、
「申し訳ございませんが、私も、もう年でございます。魔法の力も、長続きは致しません」
 それが、いかにも悲しげなので、若者は、
「いや、いいんだ、いいんだ。僕がわがままだった。気にしないでおくれ」
 この若者、今、魔法使いから呼ばれましたように、和雄、フルネームはアラジン和雄と申しまして、元は、ほとんどこの国の9割方の富を占めるくらいの大富豪でありました。国の政治家も、役人も、軍人も、商人も、あとの1割で細々とやっていたわけでありますね。
 ところが、3年前に父が急死し、和雄くんが跡を継いでから、激変いたしました。
 なにしろ、林檎一個買うのに、代金としてヒツジ三千頭と言われれば、言われたなりに払ってしまう。
 乞食に千両箱いっぱいのメープル金貨を恵んでしまう。
 使用人が、目の前で堂々と金をくすねても、なにも言えない。
 人のいいのと気の弱いのが災いして、いいようにされた上で、ある時、親戚と名乗る怪しげな人が現れ、怪しげな書類にサインさせられ、なんだかわけのわからないうちに、財産丸ごと巻き上げられて放り出されてしまいました。
 手元に残ったのは、フロックコートと古い魔法のランプのみでありました。

 和雄に優しい言葉をかけられると、魔法使いはほろりと涙を流して、
「ああ、この不甲斐ない魔法使いめをお許し下さい。私も、先代、先々代、先々々代、先々々々代、いや、もっともっと昔からアラジン家にお仕えして参り、魔法を使ってご商売をお助けしたり、魔法の絨毯にお乗せして世界を経巡ったりしたものでございますが、老いては駑馬に劣るとやら・・・」
「泣くんじゃないよ。僕が、どうにか生きていられるのは、お前のおかげなんだから。それに欲の皮の突っ張った連中に囲まれていた昔に比べると、今は気楽なもんさ。僕は、これで満足しているんだ」
 そんな言葉を聞くと、魔法使いは、本当は和雄は寛仁大度の大人物なんではないか、なんとか世に出してやりたいものだとさえ思ってしまうのであります。
「ご覧。道の真ん中にきれいな花が咲いているよ」
 和雄が、土の道の上に目を落として、そう言います。
「野宿生活をしていて、一番いいのは、こういうものを見つけた時さ」
 なるほど、和雄がそう言うと、そのピンク色の清楚で可憐な花は、この世で一番美しいものに見えてきます。魔法使いが和雄と一緒にいて一番嬉しいのは、こういう優しさを見せてくれるときです。 

「ハイホー、ハイホー」
 なんだか、岩石のような声が道の向こうから聞こえてきました。がらがらという物音もします。
 見てみると、いかつい顔の男が馬に荷車を引かせてやってきます。
「ああ、このまま馬車がやって来ると、花が轢かれてしまうね。魔法使い、行って避けてくれるように頼んでおくれ」
「心得ました


「馭者さんや、頼みがあるんじゃがな」
「なんだ、このジジイは」
「道の真ん中にきれいな花が咲いているんじゃ。ちょっと、避けてくれないかな」
「なにを。俺様を誰だと思ってるんだ」
「馭者じゃろう」
「まあね。だが、俺は今まで、人に言われて避けるなどということをしたことがない男だ。誰の言いなりにもならないのだ」
 そう言うと、男は馬にムチをくれてやり、逆に速度を上げ始めました。どんどん花に迫っていきます。このままだと、花どころか和雄まで轢かれてしまうかもしれません。
「こうなったら仕方がない」
 魔法使いの口が、馬車よりも大きく広がりました。そして、馭者も馬も荷車も、丸ごと飲み込んでしまいました。魔法使いの身体が、馬車の形に広がりました。
 しばらく苦しそうにしていましたが、やがて元の形に戻りました。
「ありがとう。魔法使い、これで花が助かったよ」

 そのうち、今度はぶんぶんと唸るような音が聞こえてきました。見ると、牛の頭ほどもある大きなクマンバチでした。
 このクマンバチはいつも花を見つけると、すり寄っていって、
「花さん、花さん、ちょっと蜜を吸わせてもらっていいかな」
「蜜ならいいわよ。でも、乱暴しないでね」
「なに、乱暴なんかするものか」
 そう言いながら、くわっと大きな口を開けて、大きな歯で花を食いちぎって、丸ごと食べてしまうのです。わざわざ、安心させたあとに、びっくりする花の顔を見るのが面白い、というねじ曲がった性格のクマンバチなのでした。
「おい、魔法使い、この花だけは食べないように頼んでおくれ」
「承知つかまつりました」

「蜂さん、蜂さん、あそこの花だけは、そっとしておいてくれないか」
「あの花は、俺が先に目をつけたんだ。あのきれいな花が怯えた顔をするのを想像すると、ぞくぞくするね」
「どうしても許してくれないのか」
「だめだね」
 すると、魔法使いは牛の頭ほどにも大きく口を開けて、クマンバチを丸ごと飲み込んでしまいました。
「わー、蜂だ」という馭者の声が魔法使いのお腹の中から聞こえ、馬のいななく声、馬車のひっくり返る音などがしました。魔法使いは、お腹を抱えて脂汗を流して苦しんでいましたが、やがて静かになりました。

 今度は道の上を竜巻がやってきました。
「魔法使い、このままでは花が巻き上げられてしまう。すまないが、もう一度、行ってくれないか」
「ラジャー」

「竜巻さんや。ちょっと、あっちへ行ってくれないか」
「なにを。竜巻様に命令する気か。お前なんぞは、放り上げてやるぞ」
 魔法使いは、天まで届くほどの大きな口を開けて竜巻を飲み込んでしまいました。
 お腹の中は名状しがたいほどの混乱となりました。
「ちょっ、ちょっと、トイレ・・・」
 魔法使いは、ランプの中に駆け込みました。ばたばたという音がしたあと、ジャーという水を流す音が聞こえてきました。

 また、道の向こうから馬車がやってきました。
「魔法使い、また頼むよ」
「お坊ちゃま、申し訳ありません。さっきから、トイレに通うこと36回。いまだ、収まりがつきませぬ。これで出ていったら、どういうことになるか・・・」
「そうかい、無理させて悪かったね」
「年のせいでござりましょうか。情けなや」
 和雄は、困った顔でしばらく花を見ていましたが、
「そうだ」
 とにっこり笑うと、花を引っこ抜いてしまいました。
「これなら、花も轢かれずにすむし、僕だって、いつでも花と一緒にいられる」
 そういうと、和雄は右手に花を左手にランプを持って、歩き始めました。

 当然、花は枯れてしまいましたが、要するにそういう運命だったんでしょうね。


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社長の業務:ショートストーリー『がっかり部』

社長1初会議 部長の挨拶
「諸君、我が社の『がっかり部』創設初の会議である。我が部は周知のように、社内各部から精鋭を選りすぐって作られたセクションである。そして、その任務は当然名前のごとく『がっかりすること』である。社長も、このがっかり方面への新たな挑戦に、大きな期待を寄せておられる。どうか、各自、気を引き締めて業務に当たってもらいたい」

月次定例会議
部長「では、それぞれ、今月のがっかりを発表してもらおう。まず、山本くんから」
山本「はい、今月の私はがっかりの連続です」
部長「ほう」
山本「息子が大学受験でして、第一志望の船橋ケンブリッジ大学、第二志望の津田沼スタンフォード大学、第三志望の千葉マサチューセッツ工科大学と立て続けに落ちまして、3連続がっかりです」
部長「それは、がっかりだな」
山本「さらに、第一滑り止めの品川切れ痔大学、第二滑り止めの川崎おなら大学、第三滑り止めの鶴見水虫大学もすべて落ちました。浪人決定です」
部長「おい、最後の鶴見水虫大学は、私の出身大学だぞ」
山本「こりゃまた、がっかり」
部長「それは、私のがっかりだ。私のポイントだ」
山本「しかし、部長、我が子ながら息子は期待できます。来年も確実にがっかりさせてくれるでしょう」
部長「いい息子さんを持ったな」
山本「はい。向こう十年くらいは浪人してもらわなければなりません。受験勉強してたら邪魔してやります」
部長「力強い言葉だ。では、続いて山中くん」
山中「はい、こないだの連休に家族旅行をしようと思って新幹線の切符を取ってあったんですが、全員、寝坊して乗り遅れました」
部長「それは、がっかりというよりうっかりだな」
山中「うっかりして、がっかりしました」
部長「ちょっと、がっかりとしては純度が低い。0.7ポイントくらいだな」
山中「それは、がっかり。あ、1ポイント」
部長「0.1ポイントくらいだ」
山中「またまた、がっかり」
部長「君は、小さながっかりを狙いすぎるな。もっと、大きながっかりに挑戦したまえ」
山下「部長、僕のがっかりはすごいです。僕の人生は、もうおしまいです」
部長「本当かね、山下くん・・・山中くん、山下くんを見習わなきゃいかんよ・・・じゃ、山下くん、聞かせてくれたまえ」
山下「はい、密かに心を寄せていた経理の大島さんが結婚してしまいました」
部長「それで人生終わりという事もないだろう」
山下「総務の柏木さんも結婚してしまいました」
部長「そうだったな」
山下「しかも、資材の渡辺さんも結婚してしまいました。ショックです」
部長「最近、我が社は慶事が多いのだな」
山下「さらにあろうことか、営業の小嶋さんまで結婚してしまいました。とどめを刺された思いです」
部長「なんだかんだ言って、君は気が多いだけじゃないのかね」
山下「でも、部長。僕の気の多さは、それだけ、がっかりのネタが多いという事になると思いますが」
部長「なんか、軽いんだよな。男なら、もっと一途に追求して、どーんとがっかりしてもらいたい」
山内「部長、私のがっかりを聞いて下さい。これは、スケールが大きいです」
部長「おお、山内くん、期待しているぞ」
山内「この間、家族で動物園に出かけまして」
部長「スケール、大きいんだよね?」
山内「まず、パンダが寝ていて、ちっとも動かないのでがっかり」
部長「それで?」
山内「ライオンも寝ていてがっかり」
部長「なんだかなあ」
山内「楽しみにしていたんです。ライオンが雄々しく吠える様を想像して期待してたんです」
部長「それだけかね」
山内「トラに至っては、奥に引っ込んだっきり出てこないで、大変ながっかりです」
部長「君、それのどこがスケールが大きいんだ」
山内「地球規模のがっかりじゃないですか。パンダは中国、トラはインドシナ、ライオンはアフリカ。世界を股にかけたがっかりです」
部長「動物園は、どこにあるの」
山内「上野です」
部長「入場料は?」
山内「一人600円」
部長「いいかげんにしろー!」

翌月・定例会議
部長「諸君、喜んでくれたまえ。君たちのがんばりのおかげで、私は社長に就任することになった」
部員「えーーーー!」
部長「なんだ、その余りにも意外そうな声は」
部員「おめでとうございます」
部長「ありがとう、ありがとう」
山本「そうなると、今の社長はどうされるんですか。会長になるとか?」
部長「役立たずの能なしのスットコドッコイの穀潰しだ」
山本「そ、そんなこと言っていいんですか」
部長「いいもなにも、『役立たずの能なしのスットコドッコイの穀潰し』という役職に就くんだよ」

翌朝、山本は通勤電車の中で某経済誌の吊り広告を目にする。
「経済界の風雲児、スティール・デブ氏に独占インタビュー!私は、この組織改革で会社を急成長させた!社長という名称をやめて『役立たずの能なしのスットコドッコイの穀潰し』に!さらに社内一の役立たずの能なしのスットコドッコイの穀潰しを『社長』に!」

「がっかりだ・・・」
 山本は呟いた。

 その後、我が国の財界トップが我も我も、と競うように『役立たずの能なしのスットコドッコイの穀潰し』を名乗るようになったこと、いうまでもない。

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金井哲夫が描いてますとかって、たまには宣伝したほうがいいのかね。

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『達人伝・桃源郷の耳』最終回

桃源郷59 神無山へ

 翌朝、手っ甲脚絆に身を固め、大小を手挟んだ成田が家を出た。女は、何も言わぬのについて来た。
 百姓達は、無言で悲しげに野良へ出かけた。犬が必死で吠えていたが、なにも聞こえなかった。猫が目をつぶりながら、不安そうに聞き耳を立てていた。
 水音をたてない小川を渡った。ただ回転し続けるだけの水車を見た。
 雑木林に入って木々を見上げる。昨夕は、これらの葉一枚一枚が耳と化していたのだ。耳は、成田に何かの内臓を思い起こさせた。

 神無山に入ると、風も吹かぬのに鳥肌が立った。空気が、鳥肌の粒にざりざりという感触で当たった。
 木の間から傘ほどもある大きな蜘蛛が二人の通り過ぎるのをじっと見ていた。老人のような顔をした蜘蛛だった。何か言いたげだったが、二人は見ずに通り過ぎた。
 いつもなら、と女は思った。
 山には妖怪や精霊がたくさん住んでいて、私に話しかけてくるのだが。
 きゃつらの話すことと言えば、一日中、風のことばかり話していたり、地面の湿り具合のことばかり話していたりするのだが。
 だが、私は話しかけられれば、返事をしてやる。きゃつらが、そうしてもらいたがっているのが、わかるから。

 今は、精霊も妖怪も黙っている。戸惑って、あるいは脅えて、うずくまっているらしい。
 何かを見たのだな。昨日の、あの大きな耳は、こうして神無山に住んでいる怪しの者達には、どのように見えたのだろうか。
 この山全体が脅えているような気配が、前を行くあのお方にもわかっているだろうか。
 私は、笛を吹きたくなる。

 音のない山の中を歩いているのは、と成田は思った。山水画の中を歩いているようだわい。墨をする音、筆が紙の上を走る音すら聞こえないのだが。
 だが、なんと禍々しい絵ではないか。なにか狂った気が流れている。
 あの女も、それに気づいているだろう。あれは、ただものではない。いずれは、リンダの孫娘でもあろうか。
 成田が振り返ると、女は口に笛を当てていた。

 そま道が通っているにもかかわらず、二人は外れて林の中の斜面を登っていった。林が切れると、ごつごつした岩の目立つところになった。ところどころに、錆び付いたような色の灌木が生えていた。
 やがて、巨大で奇怪な形をした岩塊が見えてきた。
(あの岩の陰)
 と成田は思った。
(あの岩の陰)
 と女は思った。

10 耳の穴

 巨大な岩盤の中央がうろになっている。岩盤自体が、大きな耳の形に見えぬこともない。ならば、そのうろは、耳の穴の位置ということになる。
 中に余程よく見ないと人間に見えないものが、襤褸を纏って横たわっていた。
 その細い骨ばかりの腕の先についた薄いしわくちゃな枯れ葉のような手が左耳にあてがわれていて、耳をそばだてているらしい。
 昨日、空を飛んでいた耳はこの岩盤であったかとも思われた。あの時も、この爺さんが耳の穴の中に入っていたのだろうか。
(たしかに耳クソのような爺いではあるが)

 女が笛を唇に当てた。切れ長の美しい目が鋭さを増していた。その頬、首、うなじに走った緊張から、裂帛の気合いを込めて吹いたことがわかった。
 音は出ない。しかし、空気が矢の形となって、老爺の耳を目がけて飛んでいった。
 皺の一本から目玉が覗いた。二人をふてぶてしく眺めると、
「ふん、来たか」
 と言った。猫のように欠伸をしてから、
「来るのはわかっておったがな」
 しわがれていたが、二人が久々で聞いた言葉、つまりは音だった。二人は目を見合わせた。声だ、と成田は言ったつもりだった。女も何か言った。二人の声は声にならなかった。
「邪魔をするでない」
 非常に小さな声である。惜しみ惜しみ息を出しているかのようだ。
 言葉というのは、久しぶりに聞いてみると、妙なものだった。いかにも、この老人の汚れきった舌や口蓋や唾にこすりつけられ繰り出されてきたようで、匂ってきそうだった。口の内外の筋肉をこね回し、歯で咀嚼して空気を、いろいろな音に仕立て上げ、連ねていくと言葉になると言うのが、どうも奇妙であった。
 言葉とはこんなものだったのか。こんなに慌ただしくも、不潔な行為を自分達もしていたものか。
「何をしに来た」
 再び老人が言った。そう言われても、文字通り返す言葉が二人にはない。目の前の人間宛ではあるが、一筆啓上つかまつるしかないか。成田は懐の矢立を探った。

 女が口を開いた。何か言っているらしい。もちろん、聞こえない。忍者であれば、読唇術も出来ようが、武芸百般に秀でた成田も、それは習得していなかった。
 すると、驚くべきことに
「ほう、この世から音が消えたわけを探りに来たのか」
 口をぱくつかせていた女に、老人が返事をしているようなのである。読唇術が使えるのだろうか。それとも、老人と女の間にだけ会話が成り立っているのだろうか。
 成田は思いきって(実際、思い切る必要があった)老人に向けて話しかけてみた。(成田に思い切る必要があったということは、女にも同様だったということだ)
「ご老人にお訊ね申す。拙者、この事態には、ご老人が何か関わっていると思量いたす。然りや否や」
「ふん、その問いなら、今、この女が発したのと同じではないか」
 成田と女の間には無音の世界が続いているのに、この老人は二人の声が聞こえるらしい。
 それにしても、女とは何の打ち合わせもせず、こうして同行してきたのだが、考えが通じていたというのは何やら頼もしい。
 そう思っていると、女もこちらをみてかすかに笑ったようだった

11 独角仙人

「されば、お答えいただきたい。今、この娘御と拙者の間には音がない。音をお持ちなのはご老人だけのようだ。ご老人、何をなさったか」
「何ということもないて」
 老人は笑った。笑い声さえ惜しむようなのが不気味であった。
「わしは聞いているだけじゃ」
「何を聞いていると」
「全てを」
「全て?」
「天の呟き、地のささやき、ありとあらゆるものじゃ。その中に、大三千世界の神秘を物語る言葉があるのじゃ。それがわかれば、全てを理解し全てを把持し、天空をひっくり返すこともできれば、世界をこしらえることもできる」
 女が何か叫んだらしかった。
「だが、それは誰にでもわかるものではない。わしは、独角千人。長い間、山に籠もって修行をしてきた。今では、大日如来にも並ぼうかという境地に至った。だが、わずか、あとひとかけら、足りぬものがある。それが、わしが今、ここで聞き取ろうとしている真言じゃ。それはちぎれちぎれになって、大宇宙にあまねく散らばっておる。天人の羽衣で掬い取ったとて、しかもその織り糸の隙から漏れ出るかもしれぬくらい、かそけき微妙なものである。わしは、この世に網をかけることにした。すなわち、我が耳に全ての音という音を収め取って、その中から注意深く真言を探し集めることにした」
「全ての音を、お主が盗み取ったというのか。それで、我らの声もお主なら聞こえるというわけか」
「盗み取ったとは無礼である。お前たちの声など聞きたくもないが、入って来てしまうのじゃ」
「音を返せ」
「わしに真言を探すのを止めろ、というのか。それはできぬ相談じゃ」
「皆、苦しんでおる」
「修行はやめられぬ」
「自らを大日如来に比すくらいであれば、慈悲心もまた仏のそれと同じでなければならぬはずだ」
「慈悲心を持つも持たぬも、わしの勝手だ。それに、お前にいわれたくないわ、成田音成」
「どうして拙者の名前を知っている」
「過去世、未来世、全ての音を聞いているわしに、知らぬことはない。お前は、三十六度の決闘に勝ったというのが、ちっぽけな自慢のようじゃが、それすなわち三十六度、人を殺したということに他ならぬではないか。そのような者が慈悲心を云々するなど片腹痛いわ」
 成田の目が半眼に閉じられた。女が心配そうに見ている。
「さらに、お主を剣客として一人前に仕立てたのは、村のあのリンダとルイスとかいう巫山戯た名前の爺いと婆あという。人殺しを育てて世の中に放つとは、それこそ悪鬼の所業じゃ。どうじゃ、怒ったか。怒ってみい。言っておくが、わしを斬れるなどと思うなよ。わしには、お前の心はお見通しじゃ。何をしようと、わしはお前の先を取る」

 音もなく巨大な岩石が成田の頭上に現れた。そして、彼目がけて落下した。成田は、気配とも言えぬ気配を察して、脇へ避けた。岩は、地面に激突して、沈黙の中でくだけた。彼でなければ、確実に潰されていただろう。
 続いて、岩の上から無数の石つぶてが降ってきた。これも、成田はあるいは避け、あるいは拾った棒で打ち落とした。
 独角仙人は、くすくすと含み笑いをした。
「ふん。踊れ踊れ。跳ねろ跳ねろ。うまく避けているのは誉めてやりたいところだが、いつまで持つかのう」
 成田の前に火の玉が現れ、猛獣のように襲いかかってきた。
「熱かろう。音は聞こえなくても火は熱いものじゃ。丸焼きにしてやろうかの」
 虚空に毒蛇、毒虫が浮かび、ばらばらと降りかかってきた。
「のう、成田。死ぬのがいやなら、邪魔を止めて帰れ。恥をかかせるだけで許してやってもよい。二度とわしの前に現れるな。お前は、わしには勝てぬ。わしには、お前の心が掌に載せたように見えているのじゃ」
 それが独角仙人の最後の言葉だった。

12 再び鍾乳洞へ

 途端に、凄まじい爆発音のような者があたりに満ち満ちた。
 仙人の耳に吸い込まれた音が、全宇宙に向けて逆流したのである。成田も女も耳を押さえて倒れ込んだ。
 音の嵐が止むと、木々を騒がす風の音が聞こえ、谷を渡る鳥の声が聞こえてきた。
 耳岩の下には、独角仙人の首が嘲笑った顔のまま転がっていた。女は、しばらくきつい目でそれを見ていたが、
「成田先生が斬られたのか」
 と静かな声で言った。初めて聞く女の声だった。しかし、初めての気がしなかった。あの日柄彦左衛門の刀拝見のあと、家の縁側で休んでいた時、聞こえてきた耳鳴りはこれだったのではあるまいか。
 成田は答えた。
「いかにも」
「独角仙人は、先生の心を全て読んでいたはず。いかにして、斬られたのですか」
「心など捨てた」
 女は煙たげな顔をして、
「では、今、私と話をしているのは、先生の心ではないのですか」
「また拾ったのだよ」
 
 女の名前は凛といった。もうすぐこの物語も終わりになろうというところで登場人物の名前がわかったところで、どうなるものでもないが。
「おばばの孫娘でもあられるかな」
「ひ孫でございます」
「あのおばばの血を引く者であれば、さぞ武芸の腕も立つと見た」
 女は黙って微笑むと、笛を唇に当てた。その気性を表すような鋭い音が山に響き渡った。

 帰りは凛の案内で、また鍾乳洞を通って帰った。
「先生は、この鍾乳洞が何なのか、お気づきになられましたか」
「うむ。だいたい見当はついた」


13 思案投げ首 終章

 成田家の座敷では、重役の日柄彦左衛門、成田の高弟、日柄に組みする藩士らが集まっていた。青地の顔はなかった。
「わしの家だと目立つといけないので、ここに集まってもらったわけだが」
 話し合っていたのは、藩主の息子の剣術指南役・成田音成が無断で姿を消した件である。もう三日になる。
 藩には病気と届けてあるが、もし失踪ということにあれば、成田家が潰されるばかりでなく、日柄の責任問題にもなる。
 弟子である藩主の息子からは見舞いたいという申し出があった。今は、まだ病が篤いということで断れるが、いつまでも続くわけではない。
 藩主の息子に見舞いのことを吹き込んだのは、日柄と対立するもう一人の重役であるという見方もある。それまで日柄の元に出入りしていた青地が、その重役に取り入っている気配もあった。
 成田が、藩の権力闘争の鍵になってしまっていた。
「では、奥方が、この座敷で休んでいる姿を見られたのが、成田うじの最後の姿だというのじゃな」
「御刀拝見の後ということになり申す」
「あの時は別に変わった様子もなかった。酒も進んでいた。その後に失踪などということがあろうか」
「何者かに命を狙われたということは」
「成田うじほどの使い手にそのようなことがあろうか」
「それとも乱心か・・・」
 成田失踪を巡っての議論は堂々巡りになるばかりだった。

 ついに言葉を発する者もいなくなって、一同、思案投げ首の体になったところ、
「あっ」
 成田が現れたのである。 
 一同は、確かに成田が現れるところを見たのであった。成田は、成田自身の耳の穴から出てきたのであった。それを一同は確かに見たのであった。
「ご心配おかけ申した」
 一同は、自分の目を疑ったが、今までいなかった耳がそこに現れて、そこから成田が顔を出し、ついでするすると身体を表し最後には耳は顔に収まり、なにごともなかったように、そこに立っていたのであった。
 確かに自身の耳から出てきた以上、また皆が目にした以上、 
「成田うじほどの達人になると、そういうこともあるらしい」
 とでも考えるほかなかった。
 彼が自分の耳の中で何をしていたのか、聞こうとする者はいなかった。
 成田は詫びの印に、奥に言いつけて一同に酒を振る舞った。

 成田が桃源郷への往復に通った鍾乳洞は成田の耳の穴だった。そういえば、耳というのは鍾乳洞に見えぬこともない。人間は、誰でも自分の鍾乳洞と自分の桃源郷を持っているのかもしれない。それに気づくことのできるものは、まれであろうが。
 戻って以来、成田の左耳の聴力は元に戻り、耳鳴りも消えた。凛の笛が吹き飛ばしてしまったようである。そういえば、あの独角仙人に最初に届いたのも、彼女の笛であった。
(耳鳴りが治まった以上、もうあそこへ行くこともないのかもしれぬ)

 その後、成田はほとんど剣を手にしなくなって、もっぱら彫金や書画にいそしむようになった。
 もしかすると、独角仙人に言われたことが胸に応えていたのかもしれない。
 まれに、どうしてもと乞われて道場に出ることもあったが、相手は成田の前に立つだけで、何もできなくなってしまったという。
 
(完)

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いらっしゃいませ。中川善史(自称社長)と金井哲夫(自称編集局長)が2人でしこしこ書いているふざけた電子書籍本を販売する「蕪」式会社文豪堂書店です。(社名は予告なく変更することがあります) (なおこれは個人の感想です)(効能を保証するものではありません)(おだてると調子に乗ります)

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