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2015年12月

今日のおさむらいちゃん

おさむらい198
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社長のショートストーリー『サンタクロース2題』

社長1その1 サンタの実在について

 昼休みに部下の山田くんを誘って飯を食いに出かけた。街角で売れ残りのクリスマスケーキを半値にして売っているのを見かけて、
「クリスマスの大騒ぎが終わると正月か。なんか日本人て節操がないよな」
 と私がいうと、山田くんは、
「年に一度、サンタクロースからプレゼントをもらえるクリスマスですもん。浮き浮きするのは当たり前ですよね」
「おいおい、君、まさかいい大人がサンタクロースなんて信じているんじゃないだろうね」
「信じているとか信じていないとかの問題じゃないですよ。サンタクロースは存在するんですから」
 私は思わず山田くんの顔をまじまじと見つめてしまった。冗談を言っているのではないらしい。
「じゃあ、君は今朝、サンタからプレゼントをもらったっていうのか?」
「もちろんです」
「何を?」
「午前中の会議で、僕、発言したでしょう?」
「ああ。あれはいい発言だったな。着眼点が素晴らしい」
「あれがプレゼントですよ」
「なに?じゃ、サンタがテレパシーか何かで君に教えてくれたとでも言うのかい」
「やだなあ。課長、僕はそんなエセ科学的なトンデモの話をしているんじゃないですよ。今朝、起き抜けにあのアイデアを思いついたんです。そして、枕元を見るとメモ用紙とボールペンが置いてあったんです。忘れないうちに書き留めました。それがサンタのプレゼントですよ」
「メモ用紙が?」
「そうです」
「自分で置いたんじゃないのかい」
「僕にそんなことする習慣はありませんし、寝る時には確かに置いてありませんでした」
「じゃあ、嫁さん・・・」
「僕は独身ですよ」
「じゃあ、ご両親とか・・・」
「僕はアパートに一人住まいです。だいたい、僕がこの朝に限って起き抜けにアイデアを思いつくって、誰にわかるんですか。僕自身だってわからないんですよ。わかるのはサンタしかいないじゃないですか」
「うーん」
「去年は、針と糸でした」
「針と糸?」
「何だろうと思いましたが、気がつくと、その日着ていくことにしていたお気に入りのシャツのボタンが取れていたんです。僕は裁縫道具なんて持っていませんから、サンタがプレゼントしてくれたんですよ。ボタン付けくらいは出来るんで、無事にそのシャツを着て出かけることが出来ました」
「しかしなあ・・・」
「じゃあ、課長、これを聞いたら驚きますよ。あれは、まだ10代の頃、大学受験の年でした。ある科目が苦手で困っていたんですが、クリスマスの朝、枕元にその科目の参考書が置いてあって・・・」
「自分で買ったんじゃないの?」
「確かに僕の参考書ではあったんです。前の晩、寝床の中で読んでいたのも確かです。でも、朝、枕元にあったそれには、いくつかのページに付箋が貼ってあったんです。サンタのプレゼントだと直感した僕は、その項目を貪るように読みました。そして、試験に見事にそれが出て、第一志望の大学に合格することが出来たんです。すごいでしょう。ある意味、サンタのプレゼントが運命を変えたことになると思いませんか。その大学に行っていなかったら、別の人生を歩んでいたかもしれないんですよ。僕は、これからもサンタが自分を守ってくれると思っています」
 そこまで言われると、さすがの私もうなってしまった。
「しかし・・・私なんて、ある時期、プレゼントは両親が用意するもんだと知って以来、サンタなんて信じなくなったしなあ」
「さっきも言ったでしょう。信じる信じないの問題じゃないんです。いるんですよ。そう思えばいいんです」
「どうすれば・・・」
「サンタはいるって口の中で何度も唱えたらどうでしょう。手帖に書いておいて繰り返し見るとか。デスクの前に貼っておくのもいいですね。PCの背景やスマホの待ち受け画面に、そう書いておくのもいいんじゃないかな」
「そうか。なかなか大変なことだが、山田くんの言うように努力すれば、来年のクリスマスの頃には、当たり前のようにサンタは存在すると思えるかもしれない」
「そうですよ、がんばってください」
 なんだか、夢が膨らむような気がした。この年齢になると、そういうことには、なかなか出会えない。
 よし、がんばろう。そうすれば、来年のクリスマス、私の枕元には・・・
 メモ用紙、針と糸、付箋・・・
 ・・・なんだか、急にめんどくさくなってきた。


その2 サンタの行方
 クリスマスの夜、マルコ少年は、ベッドに潜り込んでぐっすりと暖かい夢を見ていました。
 屋根の上には、サンタとトナカイが降りてきました。
「おい、トナカイ。マルコくんは、もう寝たようだな」
「はい、プレゼントは準備してあります」
「だが、大人達が今だに酒を飲んで騒いでいるようだ」
「もうちょっと待ちましょう。今、入っていったら人間に見つかってしまいます」
 雪がしんしんと積もる中、サンタとトナカイは待ち続けました。
「トナカイ、12時を回ったな」
「はい、でもまだ大人達は騒いでいます」
「全く始末に負えない酔っ払いどもだ」
 なお、サンタとトナカイは待ち続けました。もう、サンタの眉とトナカイの鼻先には氷柱が出来ています。
「トナカイ。2時を回ったな。だが、一向に大人どもは寝る気配がないぞ」
「しかたありません。もう少し待ちましょう」
 さらにサンタとトナカイは待ち続けました。でも、大人達のどんちゃん騒ぎはまるで収まりません。
「あいつら、明日は教会に行くつもりはないのか」
「それどころか、新しいワインの樽を抜いていますよ」
「これでは、他の家を回ることも出来なくなる」
「私も凍え死にしそうです」
「むむむ・・・限界だ。もう我慢できない」
 サンタとトナカイの顔は怒りで真っ赤になりました。きりきりと眉がつり上がりました。おまけに口には大きな牙さえ生えてきました。手には、マルコ少年へのプレゼント「おもちゃの出刃包丁」が握られていました。
「うがー」
 二人は声を上げると、ドアを蹴破りました。中で大人たちがびっくりしてこちらを見ています。
「夜更かしをする悪い子はいねがー!」
「いつまでも酒を飲んでいる怠け者はいねがー!」
 二人は、そこらにいた大人達を押さえつけました。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう寝ます」
「いい子にします。許して下さい」
 それ以来、この地方では、「いい子にしていないとサンタが来るよ」と言い伝えられるようになりました。
 このサンタ達は、その後、16世紀にポルトガル船に乗ってイエズス会とともに日本へやって来ました。九州上陸後、さらに北上を続け、秋田に到着。その地に落ち着いて、地元では「なまはげ」として恐れられたそうです。

今日のおさむらいちゃん

おさむらい197

社長のショートストーリー『海から上がった親父』

社長1 「いけねっ」
 八五郎はとっさにどこかに隠れようとした。しかし、両側に板塀が続く道だ。隠れようとしたら、あれを乗り越えて誰だかわからない人の家に忍び込むしかない。
 もっとも、その余裕もなさそうだった。こちらの姿は、すでに相手のぎょろりとした目玉に捉えられているに違いないのである。
 向こうからやって来るのは、八五郎の住まう長屋の大家、宗兵衛である。逃げてどうなるものでもない。
 今月も店賃をまだ入れていない。ここんとこ顔を会わせると、いつ入れるんだという催促が雷のように降ってくる。
 大家、家主と呼ばれるが、昔は、その物件の所有者であったとは限らない。むしろ、所有者は余所にいて、管理ならびに店賃の取り立てを請け負っている者を大家と呼ぶのが普通である。差配ともいう。また、町役人として、町人ながら江戸の町の行政の末端を担う立場でもある。
 だから、店賃は住人である店子から徴収して所有者に納めなければならない。滞れば大家が立て替えるという場合もあり得る。
 落語では、「店賃を八つ溜めた」
だの、「親父の代から払ったことがない」
などという豪の者が出てくるが、現実は厳しく、そういうわけにはいかないのである。(もっとも、このお話が「現実」かと言われると、そこは、むにゃむにゃなのであるが)
「いや、どうも、大家さん、すみません」
 こうなったら小言が来るのを待っているよりも、言い訳の先手を打つにしくはない。ネタのねつ造はお手の物だ。
「店賃の銭は用意していたんですが、本所に嫁に行った姉貴が今月子供が生まれるってんですよ。何かと物入りで、どうにかならないかって相談を受けちまって、仕方なしにそっちへ回しちまったもんで、来月には返ってくると思いますんで、そうなったらすぐにまとめて入れやすんで、どうかひとつ・・・・・・」
 我ながら、実によく舌が回る。大したもんだと感心しながら空っ事の言葉を並べていると、大家は宗兵衛は思いの外、穏やかに、 
「ふうん。そいつは大変だな」
 そして、少し首をかしげて、
「お前んとこの姉さんは、先月も子供を産んだんじゃなかったか?」
 しまった。八五郎は頭を抱えた。
 いやにすらすらと言葉が口をついて出てくると思ったら、先月言ったセリフと同じだったのだ。こうなったら、甘んじて小言の雷に打たれるより他ない、と目をつぶり、歯を食いしばり、腹に力を入れた。
「まあ、仕方がねえ。店賃の方は入れられる時に入れてくれ」
 そう言うと宗兵衛はさっさとすれ違って、すたすた歩いて行ってしまった。
 見送る八五郎の胸には安堵よりも、ありうべからざることが起こったという当惑の方が色濃く浮かんだ。
 なにせ因業大家として世間に名が通り、本人も幾分、それを自慢している感があるくらいの宗兵衛である。
 店賃の取り立ては苛酷を極める。少しでも遅れれば病人の布団を引っぺがす、年寄りの着ているものを剥いでいく。職人が大事にしている道具箱さえ持ってくことに躊躇しない。
「大家さん、それを取られちゃ、あっしら仕事ができねえ」
「取られたくなきゃ、女房を質に置いてでも店賃を納めるんだな」
と言うような問答は当たり前になっていて、当月の八五郎は目下、この攻防の段階にあった。(もっとも彼は独り者なので、女房云々はなかったが)
 であるから、今のように鉢合わせになったら、敵討ちのように「ここで会ったが百年目、盲亀の浮木優曇華の」とばかり執拗に追い回し、天に昇り海に潜ってでもとどめを刺さずにいないはずの宗兵衛なのである。
 しかるになんぞや、「店賃は入れられる時に入れてくれ」とは。八五郎にしてみれば、未来永劫払わなくともよろしいと解釈したくなる回答ではないか。
「どうしちまったんだ、因業大家・・・・・・」
 
 その夜、八五郎は何処かで一杯やって帰ってきた。店賃に回す銭は地面を掘り返しても出てこないような時でも、酒を飲む銭はなぜだか捻出できるものなのである。ただし、その逆の場合はあったためしがない。
 例によって建て付けの悪い戸を開けて部屋に入ると唯一の財産と言ってよい煎餅布団にくるまって、早くも寝息を立て始めた。灯りを点けようなどという余計な考えは頭をよぎりもしない。日が暮れたら呑む、呑んだら寝る。潔いものである。
 ふと目が覚める。大抵はお天道様が昇るまで目も覚めないのであるが、どうしたことだろう。
 戸ががたがたといっている。これか。誰か入って来ようというのか。泥棒だとしたら目の利かないやつだ。もう少し盗むもののありそうな家に行けばいいものを。
 心張り棒がかってあるので、普通には開かないはずである。だが相手が泥棒であるなら、どんな職業上の秘技がないとも限らない。八五郎は唯一の財産を死守すべく、ぎゅっと布団を抱え込んだ。
 しばらくして、がたがたは消えた。あきらめたか。八五郎は、再びうとうとしかかった。
「なに、俺だ。心配ねえ」
 夢うつつに聞いた声は大家の宗兵衛である。真っ暗な中に彼の顔が見えるような気がする。すると内側にいるのか。どうやって入った。これも大家たるものの職業上の秘技であろうか。
 なに大家、と思って、八五郎は飛び起きようとした。おのれ、因業の余り、逃げられぬ夜中に店賃を取りに来たか。寝込みを襲うか。そっちがそう来るなら、こっちだって彼を突き飛ばしてでも逃げおおせてみせる、と極端なことを考えたのは、まだ酔いと眠りが頭の半ばを占めていたからかもしれない。だが、金縛りに会ったようで、身体も動かない、口もきけない。
 宗兵衛の口調は穏やかだった。
「なあ、八。俺が夜釣りに出かけたと思いねえ」
 何の話だ?夜釣り?大家に、そんな風流っ気があったか。銭の勘定が道楽だと思っていたのに。いったい、いつのことだ。
「○○の方さ」
 いつ、というこちらの疑問には答えず、場所を言った。だがよく聞き取れない。海か川か池か沼か。
「そう、半時も釣り糸を垂れていたかなあ。ふと見ると、水辺に変な生き物がいるんだ」
 夜釣りといったが、大家は夜目が利くのか。それとも、よほど明るい月の晩か。今、暗闇に大家の顔がぼんやりと見えているようなものか。
「大きさは鯰くらいかなあ。なんだか魚のようでもある。四つ足のようでもある。トカゲのようでもあるが、うんと大きい。イタチの類かというと毛がない。うずくまって、俺を見ている」
 再び何の話だ?夜中に人の部屋にわざわざ忍び込んで、どういう話をしようというのだろう。こちらに釣りの趣味などないのはわかっているだろうに。
「その顔が何かに似ているんだ。八っつあん、何だと思う」
 答えようにも口が動かない。もっとも動いたところで「わからねえ」としか言えない。
「俺の親父の顔だよ。だいぶ昔に死んだ。中年になっても酒は飲む博打は打つ、とんでもない親父だった。挙げ句の果てに飲み過ぎて死んでしまった」
 そこで大家は不意と息を切る。それでどうした、と続きを催促したくなる。
「生きているうちも、お袋は泣かされっぱなしだったが、死んでからは余計に苦労した。妹は女郎屋に身を沈め、果ては死んでしまったよ。なあ、八っつあん、みんなは俺のことを金の亡者のようにいうが、金に汚くなったのは、こういう生い立ちがあったと思ってくれ」
 うんうん、と八五郎は胸の中で頷きながら聞いている。
「その親父がなんで今頃俺の前に。しかも浅ましい姿で。なんだか、恨めしいような恥じ入っているような顔をしている。きっと成仏できないんだろうなあ。
 それまで憎いとしか思えなかった親父の顔に手を合わせたよ。
 だが、よく見ると変な気がする。親父の顔といえば顔なんだが、別の男の顔のような気もする。別の男の顔に手を合わせているなんて、慌てて知らないうちの葬式に飛び込んじまったようなもんじゃないか。
 はて、この顔は、と思ったが思い出せない。どの男でもないような気もするし、どの男でもあるような気もする。ただ男であると言うより仕方ない。もしかして、男なんて威張ってはいるものの、お殿様だろうが貧乏人だろうが、素顔はこんな情けない顔なんじゃあるまいか、と思った。
 そのうち、男でも女でもないような気がしてきた。ただ顔だ。いや、顔でさえないような気がしてきた。なんだかわからないものだ。
 すると、そのなんだかわからないものが口を聞いた。いや、口があったかな。もぞもぞとして聞き取りにくい。
「ワシはうれしい」
 そう言っているように聞こえる。
「ワシは、今日、海から上がった。初めて海から上がった生き物だ」
 何のことだろう。
 わけがわからないが、これは親父ではなさそうな気がする。だが、俺にまるっきり関係ないとも思えない。はっきりしない。何かもっと、先祖の先祖の、そのまた先祖の、大昔の方から俺に向かって話しかけているような気がする。
「ワシは苦しい」
 今度は、そう言った。
「海から上がるのが早過ぎたのかもしれぬ。ワシは苦しい」
 苦しいんだそうだ。
 さて、俺はどうしたらいいだろう。こいつが親父であれば、助けてやるべきか。いや、その逆か。恨み骨髄の親父であれば、踏み殺してやってもいいくらいだ。お袋と妹の仇だ。
 だが、こいつがご先祖だとすると踏んづけたりしたらどうなる。大昔から俺へ代々続いてきた大本が踏み潰れて消えてしまう。すると俺はどうなる。消えてしまうか。俺だけじゃなく、お袋も妹もなかったことになる。もちろん親父も・・・・・・。
「苦しい。海へ帰る」
 また、そいつがものを言った。
 妙な気がした。虚空に、べん、と太棹の三味線が鳴って、もろともに生まるる前のことなれや、未生の海へ帰るなり、そんな義太夫みたいな節が聞こえてくるような気がした。
 そいつは向きを変えると、海へ向けて動き出した。足があるのか。鰭のようなものかもしれない。あるいは蛇のようにのたくっているのか。
 俺も後について歩いた。ひたひたと遠浅の波が足下に寄せてきた。暖かい海だった。風呂よりも気持ちがいい。気がつくと、俺の足がなくなっていた。気持ちがいいんで溶けちまったにちがいない。だんだん、腰も腹もなくなっていく。俺が丸ごと溶けていく。俺が海なんだか、海が俺なんだか区別がなくなっていく


 それから三ヶ月経つ。店賃は引き続き未納である。
 しかし大家と顔を合わせても、店賃の「た」の字も出てこない。それどころか、八五郎の顔を忘れてしまったのではないか、と心配になるくらいである。
 こうなると却って居心地が悪くなる。背中に何か取り憑いているような変な気がしてくる。憑き物を払い落とすには店賃を納めねばならぬ。心境の一大変化である。そんなこと、思ったことがない。店賃は要求されないと払いたくなるものか。
 ところが、せっかくの心境の変化にも関わらず、銭の方が言うことを聞いてくれない。たまさか八五郎の前を通過することはあるのだが、それは店賃という属性を帯びる前に、酒という物質に変換されて消え失せてしまう。今までそうだったので、銭の方が方針の変更を拒んでいるのか。後の世の言葉で言えば、慣性の法則のようなものか。
 というわけで、店賃は滞まり続けている。このままでは、落語の世界の豪の者が八五郎の身体をまとって、現実世界に現出しかねない。
 近ごろ、道を歩く大家を見ると、顔が陽炎のように、ゆらゆら揺れて見える。向こう側が透き通って見えるようでもある。
 あの夜の話のように、何処かへ溶け出してしまうつもりか。そうなる前に店賃を納めないと、一生片付かない気分で過ごさなければならなくなる。
八五郎の焦燥は募った。


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社長のショートストーリー『SF巨編・12人いない!』

社長1 広大な宇宙空間で孤独な旅を続ける一隻の宇宙船があった。
遙か離れたアンドロメダまで、地球では乱掘のため枯渇してしまった『牛丼のたれ』を取りにいくという重大な使命を帯びているのだった。
「む、おかしいぞ」
 ディスプレイを見ていた船長が眉根にしわを寄せた。
「航行速度が落ちている。方向もわずかだがズレている。その他のデータもおかしい・・・。宇宙船に何かが起きているに違いない・・・おい、ネズミ」
 船長は傍らにいた男に声を掛けた。ネズミと呼ばれた男は、小柄だがすばしっこそうだった。
「緊急会議だ。スタッフを全員集めてくれ」
「らじゃー!」
 ネズミは部屋を出て行くと、隣の部屋に入って、
「おい、ウシ。緊急会議だ」
「うーっす」
 ウシと呼ばれた鈍重だが粘り強そうな男はのろのろと立ち上がった。
「トラ、緊急会議だ。集まってくれ」
 トラと呼ばれたどう猛で勇敢そうな男は返事の代わりに、がおーっと吠えた。
「船長、集めました。ネ、ウシ、トラ、タツ、ミ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、イ。スタッフ12人、全員揃っています」
「む?ネズミ、お前、今なんて言った?」
「ネ、ウシ、トラ、タツ、ミ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、イ、スタッフ12人、全員揃ってると申し上げました」
「おい、11人しかいないじゃないか」
「え?・・・ネ、ウシ、トラ・・・あれ?誰がいないんだろう

「我が宇宙船は、コスト低減のために12人のスタッフが睡眠時間も削ってフルに揃って働いてこそ、順調な航行が出来る設計なのだぞ。別名ブラック宇宙船と呼ばれているくらいだ」
「おっしゃるとおりであります。低賃金で過酷な労働を強いられ、おまけに宇宙空間なので他の就職先も探せない・・・」
「それはともかく、11人しかいないということは、航行に重大な影響を及ぼす。いないのは誰だ」
「ネ、ウシ、トラ、タツ、ミ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、イ・・・あと誰かいましたっけ」
「仕方ない、点呼を取る。名を呼ばれたら返事をするように。まず、ネ、ことネズミ」
「はい」
「ウシ」
「はい」
「トラ」
「はい」
「タツ」
「はい」
「ミことヘビ」
「はい」
「ウマ」
「はい」
「ヒツジ」
「はい」
「サル」
「はい」
「トリ」
「はい」
「イヌ」
「はい」
「イことイノシシ」
「はい」
「・・・11人しかいないじゃないか。名を呼ばれていないものは?返事をし忘れたものは?・・・しかたない、ではもう一度やろう。ネことネズミ」
「はい」
「ウシ」
「はい」
「トラ」
「はい」
「タツ」
「はい」
「ミことヘビ」
「はい」
「ウマ」
「はい」
「ヒツジ」
「はい」
「サル」
「はい」
「トリ」
「はい」
「イヌ」
「はい」
「イことイノシシ」
「はい」
「おかしい。全員呼んだはずなのに11人しかいない。誰がいないんだ。仕方ない、もう一度・・・」
「船長、いい加減にして下さい」
「これをやるとコピペで済むので作者はラクなんだが」
「読者は飽きてます」
「わかった。人力に頼ってるからダメなんだ。高性能点呼ツール『出席くん』を使おう」
「例の七つのパーツを組み合わせて作る、別名『七味唐辛子』というやつですね」
「すぐにパーツを揃えろ」
「唐辛子、ありました」
「陳皮、ありました」
「胡麻、ありました」
「山椒、ありました」
「芥子の実、ありました」
「麻の実、ありました。これで全てです」
「六つしかないじゃないか」
「唐辛子、陳皮、胡麻、山椒、芥子の実、麻の実・・・あとなんだろう」
「一緒に仕舞っておけばよかったのに」
「船長が盗難にあうといけないから、分散して隠しておこうと指示したのです」
「宝探しだな。こうなったら、高性能探索マシーン『七福神』を使おう」
「例の七つのパーツからなるマシーンですね」
「パーツを揃えろ」
「エビス、ありました」
「大黒、ありました」
「弁天、ありました」
「毘沙門天、ありました」
「布袋、ありました」
「福禄寿、ありました。これで全てです」
「六つしかないじゃないか」
「えびす、大黒、弁天、毘沙門、布袋、福禄寿・・・あとなんだろう」
「こういうのって、必ず思い出せないのが出てくるんだよな」
「こんな名前にしなきゃよかったのに」
「つける時は、いいアイデアだと思ったんだよ・・・仕方ない、こうなったら高性能検索ツール『A○B48』を使おう。48のチップからなる・・・」
「やめて下さい」
「なぜだ」
「作者は、おっさんですよ。若い女の子48人の名前なんて言えるわけないでしょう」
「そういえば、以前やっとのことで前田○子と板野○美を覚えたら二人とも抜けてしまってがっかりしていたな」
「もう二度と覚えてなんかやるもんか、と言ってました」
「大島○子とか小嶋、小嶋・・・えーと」
「船長、悲しい努力はやめましょう」
「こうなったら仕方がない。高性能記憶想起ユニット『乃○坂46』を使おう。これは46のブロックからなる・・・・・・」
「船長、A○Bでさえムリなのに、乃○坂なんてわかるわけがないでしょう。作者はおっさんなんですよ。記憶力と体力の低下に悩み、時流から取り残されるおっさんなんですよ。けっして『おじさま』じゃないんですよ」
「確かに・・・昔はよかった。キャン○ィーズなんて三人だ。ピン○レディーなんて二人だ。ザ・ピーナッツだってこま○り姉妹だって二人だ。なんで今はこんなぞろぞろ大勢いるんだ」
「ビー○ルズは4人。ロー○ング・ス○ーンズは5人。おっさんは苦労しなくて済みました」
「ス○ーンズなんて最初5人だったのに、4人になってくれた」
「さすがは、おっさん思いのバンドですね」
「まさか、今のバンドは48人とかいるんじゃないだろうな」
「それじゃオーケストラですよ」
「こうなったら、おっさんらしく、赤穂四十七士とか水滸伝一〇八人の豪傑とか・・・・・・」
「事態を複雑にするばかりです・・・・・・」
「どうすれば、どうすればいいのだ・・・いなくなったスタッフを見つけることさえできればいいのだが・・・・・・」
 何かを探し求めるように必死で虚空を見つめる船長。その名はウサギ・・・・・・。
(これは作者の実体験にもとづいて創作されたものです)