金井哲夫の超短編小説「ラッパスイセン」
太平洋に浮かぶ小さな島の南斜面には、一面に野生のラッパスイセンが植わっていた。
春子と春男は、お互い春に生まれた同士の幼なじみで、毎年、ラッパスイセンが咲く時期になると、ここへ来ることにしていた。もう何回目になるだろうか。高校を卒業してまだしばらくこの島に暮らしているが、まだお互いの気持ちを確かめてはいなかった。
今年こそは、将来の話をしたい。二人は互いに胸の中でそう願っていた。
夜明け前、二人は古びた軽自動車に乗ってラッパスイセンの海岸にやってきた。道路の脇には休憩場と見晴台を兼ねた駐車場がある。その海に面した、丸太を模したコンクリート製の柵から先は、眼下にラッパスイセンの斜面が広がり、さらに30メートルほど下ったあたりから青い海になっている。そこから先には水平線までもう何もない。
二人は車を降りて柵の前に海に向かって並んで立った。水平線の上が少し明るくなり、太陽の先端が燃える宝石のように少し見え始めたとき、春男は思いきって春子に言った。
「ボクたちさ……」
そのとき、一輪のラッパスイセンが朝日を浴びてプウと鳴った。ここに自生するラッパスイセンは、太陽の光を浴びて開花するときに、プウとラッパのような音を立てるので有名だった。
「なに?」と春子が聞き返したとき、ププー! と二輪のラッパスイセンが続けて鳴った。
太陽が少し上に出てきて、ラッパスイセンの斜面に当たるオレンジ色の日光の面積が広くなる。
すると、プープーとあちこちからラッパスイセンの開花音が響くようになった。
プー! プープープー! ププー! プププー! プープププー! プップププー! プー! ププププー!
「あの……」
プープープープー! ププー! ププププー! ププー! プー! プー! プー! プー! プー!
「なあに?」
プー! プー! ププー! プププププー! プー! プー! プププー! ププー!
プー!
うるさいのでおしまい
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