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 社長の業務 ナンセンス・ファンタジー『毒ずきんちゃん 最終回 ポコペンな人々と王室の危機 プレゼントキャンペーン そして帰郷のこと』

キャンペーン 魔女が国中にポコペン病が蔓延するように魔法をかけてしまいました。ポコペン病というのは、意識していないのに、言葉の最後に変なことを付け加えずにいられないという、恐ろしい病気です。
 (馬鹿馬鹿しいとか言っている場合ではありません)
 王様は、ポコペンと言わずにいられなくなりました。毒ずきんちゃんは、どうしても、がちょーんと言ってしまいます。眠り姫は、必ず、はらほれひれはれと言ってしまいます。もっとも、姫本人は気に入っているようでもありました。
姫「これって面白いですわ、はらほれひれはれ」 

 中には、もっと甚大な被害を蒙っている人もいます。あるお医者さんは、どうしても「手遅れですな」と言ってしまうのです。
「先生、どうも風邪気味なんですが」「どれ、見てみましょう・・・手遅れですな」「えー!」「いや大丈夫、薬を出しておきましょう・・・手遅れですな」
 ある牧師さんは、「ナムアミダブツ」と言わずにおれません。
「天にまします我らが父よ・・・ナムアミダブツ」 
 ある教師は「お母さんによろしくね」と言ってしまいます。
「君は何でこんな簡単な問題が解けないんだ!・・・お母さんによろしくね」まるで、ヘンな下心があるみたいです。
 何かひとこと言うたびに旧約聖書を全文暗唱せずにいられない人も出てきました。この人は、朝「おはよう」と言ったきり寝るまでずっと暗唱し続けているという日々を送っています。
 ワンワンと吠えるたびにヒヒーンといななかなければならない犬、ヒヒーンといななくたびにコケコッコーと時を告げる馬、コケコッコーと時を告げるたびにホーホケキョと囀るニワトリ等、動物までが塗炭の苦しみを舐めています。

村人A「こりゃ、いったいどうしたことだんべ、アジャパー」
村人B「みんな、おかしくなっちまっただ、ふんだらべっちゃ」
村人C「いつから、こうなっただか、アノネおっさんワシャかなわんよ」
村人A「そういえば、王様が演説の時、やたらにポコペンと言っていただよ、アジャパー」
村人B「あれが、わしらにうつっただか、ふんだらべっちゃ」
村人C「王様に説明してもらいてえだ、アノネおっさんワシャかなわんよ」
村人A・B・C「お城に押しかけるだ!アジャパー、ふんだらべっちゃ、アノネおっさんワシャかなわんよ!王様に説明してもらうだ!アジャ・ふんだら・アノネおっさん・パー・べっちゃ・ワシャかなわんよ」
村人A「自分で何言ってるのかよくわからないだ、アジャパー」

 さて場面変わって、こちらは城。王様、お后様、大臣が話し合っています、ふんだらべっちゃ。(あれ?)
王「大臣、民の様子はどうじゃ、ポコペン」
大「非常に憂慮すべき事態になっております、てなコトおっしゃいましたかネ」
王「なんだと?ポコペン」
大「民の生活に重大な支障が出ているのであります、てなコトおっしゃいましたかネ」
王「出ているのか、出ていないのか、ポコペン」
大「出ているのであります、てなコトおっしゃいましたかネ。私も、このてなコトおっしゃいましたかネというのには参っているのであります、てなコトおっしゃいましたかネ」
王「よくわからんぞ、ポコペン」
后「王様、ですから、あれが大臣が言わずにいられない言葉なのですよ、スイスイスーダララッタ。ですから、お怒りになってはいけませんわ、スイスイスーダララッタ」
大「大変です、今入った報告によれば、民が城に向かって押し寄せてきて、今度の事態の説明を王様に要求しているとのことです、てなコトおっしゃいましたかネ」
王「そうは言っても、余にもわからんぞ・・・ポコペン・・・」

 頭を抱えた王様の部屋へ、その時、毒ずきんちゃんと眠り姫が飛び込んできました。
毒「まさかの時に毒ずきんちゃん!がちょーん」
姫「と、眠り姫!はらほれひれはれ」
王「おお、姫・・・と、誰だっけ、ポコペン」
后「姫は、前のように美しい姿に戻ったような気がしますわ、スイスイスーダララッタ」
 毒ずきんちゃんと眠り姫は、王様とお后様に、これまでのことを話しました。姫が魔女に魔法をかけられて黒い森で眠っていたこと、毒ずきんちゃんがキスして魔法を解いたこと、一緒にここまで旅を続けてきたこと、今まで姫になり代わっていたのは魔女だったこと、今度のポコペン騒動は魔女の仕業であること。
王「それで、わかった・・・で、どうすればよいのだ? ポコペン」
毒「わからん、がちょーん」
王「それでは、なんにもならんではないか、ポコペン」

 再び王様が頭を抱えたところへ、窓がばたんと開いて一陣の風が吹き抜けました。ふと見ると、風のあと、床の上に立っているのは風の小人でした。
風「月の蝶の翅の城が大変になっているって聞いて、やってきたんだ」
毒「よくわかったな、がちょーん」
風「風の噂ってやつだよ。ほら、ここに三つの願い事が叶う黄色い宝石を持ってきた」
 眠り姫が横から、
姫「まあ~!それがあれば、贅沢し放題ですわね、はらほれひれはれ」
毒「お前のために使うんじゃない!はらほれ・・・じゃなかった、がちょーん」
風「でも、その三つの願い事は僕が使っちゃったんだけどね」
毒「何にもならないじゃないか、がちょーん」
風「君たちが閉じこめられていたのを救うために使ったんだよ」
毒「マクベスの迷路の牢の時か、がちょーん。それで出られたのか、がちょーん」
風「でも、この宝石をよく見て。中に字が浮かび出ているだろう?」
毒「なになに・・・『ただいま、プレゼント・キャンペーン中、あなたの友達に願い事をひとつプレゼント』、じゃあ、もう一回使えるのか、がちょーん」
姫「わたくし、わたくし、わたくし・・・はらほろひれはれ」
毒「黙ってろ、がちょーん・・・でも、なにか呪文がいるんじゃないか?がちょーん」
風「大丈夫、心から願えば宝石は聞いてくれるよ」
毒「よし!宝石よ、今まで魔女が掛けた魔法と呪いを全て解いてくれ!」
 宝石が、まぶしいような強い光を放ちました。
 その途端、全ての人々のポコペン病が治りました。魔女が「一番美しいのはだあれ」というセリフで割った鏡が元に戻りました。どこかの池のほとりで、人間に戻ったカエル王子が呆然としていました。
 そして・・・ひらひらと木の葉が舞い落ちるようにして、城の窓から戻ってきたホウキに乗った魔女が・・・あの恐ろしい風貌が消えて、可愛らしい少女になっていたのです。

 それは、こういうわけでした。
 魔女の名前はディディというのですが、14歳になって故郷の村を出て、キキという幼なじみとともに人間社会に魔女の修行に出てきたのです。が、そこでディディとキキは同じ男の子を好きになってしまったのでした。
 男の子はキキを選びました。ディディは絶望し、怒りと悲しみのあまり、自分にこの世で最も邪悪で恐ろしい魔女になってやる、と呪いを掛けてしまったのでした。

 ディディは、もう悪いことは二度としない、と誓って故郷の村に帰っていきました。
 毒ずきんちゃんは、国を救い、姫を救った英雄と讃えられました。
王「どんなお礼でもしよう。なんでも申してみよ」
毒「お礼なんていらないさ。それより、あたしは姫の魔法を解いたんだ。だから、姫と結婚して王位を継げるはずなんだ」
 それを聞いていた大臣が、
大「残念ですが・・・この国の法律では、七歳で、しかも女の子は姫と結婚できません。ですから王位も継げないのです」

 毒ずきんちゃんは、たくさん御馳走してもらい、たくさんのお土産をもらいました。
 眠り姫は、この城にとどまって遊んでいけ、と言いましたが、毒ずきんちゃんは帰ることにしました。
 途中、マクベス城を通ってカグヤ姉さんに会いました。この城の王様になって欲しい、と言われましたが、それも断りました。
 風の小人の荒野を抜け、市場のある町を通り、カエル王子の池を過ぎ、黒い森の家にたどり着き、二階に昇ってベッドのある部屋に行くと、お父さんがイビキをかいて昼寝をしていました。
 毒ずきんちゃんは、お父さんに跳び蹴りを食らわせて、ベッドの向こうに落とすと、自分が入ってぐっすり眠りました。
 別に誰もキスしに来なくても、いいや、と思いました。

 それから、毒ずきんちゃんは、ちょくちょく月の蝶の翅の城やマクベス城や風博士や風の小人を訪ねていっては、楽しく遊んだそうです。なにしろ、ちょっと口笛を吹きさえすれば、魔女のディディがホウキに乗って迎えに来るので、どこへでも簡単に行けるのでした。
 こんなのが、毒ずきんちゃんの七歳の時のお話でした。
(おしまい)

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