みなさまと共に歩む…… (*個人的な感想です)

金井哲夫のあたくし小説 『ペンギン』

あたくし階の仕事部屋の窓からは、隣接する小さな畑が見える。このあたりの地主が生産緑地として売らずに残している一角だ。今どきの建て売りなら四軒は詰め込める広さがある。
 その端には六坪ほどのキウイの棚がある。夏になると丸く特徴的は葉が塊になって密生し、棚の下を暗くする。
 六月の晴れた日、キウイの葉がそろそろ棚の上を覆い始めたころ、ふと窓から目をやると、そこに見慣れない一羽の鳥がとまっていた。
 鳩ほどの大きさだが、頭は鳩よりも大きい。全体にずんぐりしていて黒く、腹のあたりだけが白い。棚の上で、何やらしきりに啄んでいる。
 子どものころから鳥類図鑑が好きで絵本がわりによく見ていたボクは、野鳥についてひととおりの知識を持っているつもりだ。少なくともこのあたりに飛来する鳥は大抵判別がつく。しかし、こいつは難しい。
 鳥に関して知っていることを頭の中に一度に並べて、あれこれ考えた。各部の特徴を足し合わせたり、反対に既知の鳥から目の前の鳥の特徴を引き算してみたり、そうしてひとつの論理的な答が導き出された。
 あれは、フンボルトペンギンだ。
 これはあらゆるデータから割り出された帰納的結論であり、「ペンギンであろう」とか「ペンギンのようだ」と主観的に演繹されたものとはまったく異なる。
 フンボルトペンギンの特徴として、あごの下の一本の黒い線がある。ここからでは遠くてよく見えないが、どうもありそうだ。あるはずだ。ないわけがない。なぜなら、フンボルトペンギンだからだ。
 あれがフンボルトペンギンではないという理由がない。つまり、あれがフンボルトペンギンでなければ、地球上のすべてのフンボルトペンギンは、フンボルトペンギンではなくなるのだ。
 たしかにペンギンは南米の太平洋岸に棲息する海鳥であり、日本の内陸の住宅街のキウイ棚にぽつんととまっているはずなどないと反論する者がいるだろうが、それは今日まで人が知り得たペンギンの生態から敷延しているに過ぎない。世界中の推論をかき集めて山のように積み上げたとしても、目の前にフンボルトペンギンがいるという現実を掻き消すことはできないのだ。百聞は一見に如かずだ。
 では、このペンギンはどうやってここまで来たのか。答は明白だ。飛んできたのだ。鳥なので、そう考えるのがもっとも合理的だ。
 ペンギンは飛ばないとされているが、それとてペンギンが飛んでいるところを見た人間が一人もいないというだけのことで、飛ばないという証拠にはならない。あの小さな羽根で飛べるはずがないと言うのは、鉄の塊のジャンボジェット機が飛ぶはずがないという妄言に匹敵する。浅学の恥を晒すのみだ。
 同様に、フンボルトペンギンが木の上で餌を啄むことはないと考えるのも、それを見た人間がいないというだけのことだ。それは単なる思い込みだ。よしんば、南米ではそうしないとしても、動物は環境が変われば、生きるために行動を変えるものだ。何をしたっておかしくない。
 もしかしたら、南米から魚のお弁当を持ってきているのかも知れない。それとて誰にも否定はできない。獲れたての新鮮なやつを一匹、一旦腹に収めて、ここまで飛んできて、腹から戻してゆっくり食べているのかも知れないのだ。
 そんなことなら、最初に新鮮なやつを腹いっぱい食べてから飛んでくればいい、まったく非合理な行動だ、などと思うのなら、雨風を凌ぐ立派な建物を建てておきながら、屋根も壁もない庭にテーブルを出して、わざわざそこで食事をして喜んでいる人間の行動と比較してほしい。大差ないではないか。
 ここまで言って、まだあれがフンボルトペンギンであることに懐疑的だと? あーら驚いた。実際ボクの眼の前にフンボルトペンギンがいて、それをボクはこの目で見ているにも関わらず、キミは見てないにも関わらず、否定しようというのか。
 恐らくキミは、ラーメン屋で四川風激辛担々麺を注文して、眼の前に天丼セットが出てきたとき、それは四川風激辛担々麺でなければならぬと自らに言い張り、天丼セットを強引に汗をかきながらすすり込むのであろう。
 意味も根拠も無い常識という思い込みの棺桶に収まって何も考えずに日々ただ墓場までの道をベルトコンベアーに運ばれていくことこを平穏な人生と思い込み人と生まれた上の理想である有り難がっているキミは、変化や意外性を悪逆無道の極みと決めてかかっている。そうした野蛮が世界の正しき改革を阻み、幾千年も相変わらず愚かな戦争を繰り返す結果に繋がるのだ。
 おっと、こんなことを話しているうちに、フンボルトペンギンは頭上を通過する椋鳥の群れを見上げて「ぴー」とひと鳴きして、釣られるように飛んでいってしまった。
 ボクは感動した。ボクは世界で初めて、ただひとり、フンボルトペンギンの飛行を目撃したのだ。


 
 
 
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

こんなに頂いていいのか…汗。汗がとまりません。

どうしても我慢できなくなってしまって。
私は一応女性なんですけど、これまで孤独ですごく寂しかったんです。
お金が欲しいってずっと思っていたら、ある人に出会いました。
ものすごい金額を手に入れてしまったんです。
不労所得が簡単にできるんです。
本当に知りたい人だけ、連絡してください。
知りたい方はbanana_ayako@yahoo.co.jpまでメールください。
すごい秘密をメールもらえた人だけに教えます。
プロフィール

Author:文豪堂
いらっしゃいませ。中川善史(自称社長)と金井哲夫(自称編集局長)が2人でしこしこ書いているふざけた電子書籍本を販売する「蕪」式会社文豪堂書店です。(社名は予告なく変更することがあります) (なおこれは個人の感想です)(効能を保証するものではありません)(おだてると調子に乗ります)

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR