みなさまと共に歩む…… (*個人的な感想です)

社長のショートストーリー『ギヤマンの海の底』

社長1村長の息子で、尋常小学校の三年生になる三男坊が神隠しにあった。
大人しい子供で、普段から外へなどあまり遊びに行かないのである。大抵は、一人で家で遊んでいる。それも小石だの木の葉を拾ってきては、縁側に並べて眺め入っていたりする。時ににやにやしてみたり、妙に寂しげな表情を浮かべてみたりするが、ほとんど喋らない。
まわりの大人からは、少し足りないのではないかと思われていた。
その日も家にいたのである。部屋に座ってぼんやりしているのを、何人もが見ている。出掛けたのを見たものはいない。頭は弱いが顔立ちの可愛らしい子だったので、天狗の稚児にでもさらわれたのではないか、と陰口を叩くものもいた。

三太は、奇妙な部屋に座っていた。いや、部屋と呼んでいいのかどうかわからない。まわりが、ギヤマンでできたように青いのである。いやに透明な感じがするのに、遠くまで見渡せるわけでもなく、海の底に行けるとしたら、こんな感じだろうか、と思われた。
彼はぱちぱちと二、三度、まばたきをした。或いは水をかぶった犬のように、ブルブルと首を震わせた。 いつもなら、こうやれば「覚める」のである。
いつも、木の葉や小石を並べて見入っていると、いつの間にか、それらが動き出しものを言い出し、表情や仕草を持ち始める。その周囲には、いろいろな情景さえ見えてくる。
彼らは、ある時は義経や弁慶を演じ、ある時は小栗判官と照手姫を演ずる。三太が聞いたこともない話なのに、木の葉や小石が勝手に始めるのである。飽きないし、気に入った場面があれば繰り返し演じてもくれる。
夢中になっているのだが、それでいて誰か家族からでも呼ばれれば、目をぱちくりとさせれば、義経も弁慶もたちどころにもとの石や木の葉に戻って、何事もなかったように家庭の日常が続くのである。
今日は中庭の木立が役者になってくれた。風にそよぐ木々が何かを語り始める。
姉弟の物語だった。遠方にいる父を訪ねて、母と姉弟は旅に出る。ところが途中で人買いに騙され、母とは別れ別れになり、二人は「さんせう太夫」という分限者に売り飛ばされ、奴隷として使われることになる。
弟を逃がそうとして、姉が犠牲になる決心をするところで、三太はこらえられなくなった。膝の上にぽろぽろ涙が落ちるのである。
その涙が青かったのかもしれない。あたりが青く染まってしまった。
「ここは海の底か?」
三太は呟いた。「さんせう太夫」の屋敷は海沿いにあるのである。潮汲みをさせられていた姉は、そのまま波にさらわれて、海の底に沈んでしまったのかもしれない。あるいは自ら身を投げたのか。三太は、可憐な姉の姿を探そうと、目の涙を拭った。
「何をぼんやりしている」
びっくりして、その声の方を見ると、鬼のような大男が腕組みをして、いかにも恐ろしげに見下ろしていた。
「今から、お前の仕事を教えてやるのだ。よく聞け。怠けると飯抜きだ」
 なんだかわからないが、飯抜きという言葉が忍びなく響いた。
「まわりをよく見回せ。光りながら落ちてくるものがあるだろう」
 なるほど上の方から、子供の爪くらいな小さなものが、ピカピカ光りながら降ってくる。そして、三太の目の前を通り過ぎて、床も地面もないかのように、下へ下へと落ちていき、やがて見えなくなる。
「そら、もったいない。それをお前の掌で掬って、前にある板の上に載せるのだ。それは『ふらぬら』といって、壊れやすいものゆえ、子供の掌でないと掬い取れぬ。だから、お前のような子供の仕事なのだ」
言われたように、掌の上に落ちてくる『ふらぬら』を受けてみた。何の重みも感じなかった。ただ、青白く光っているのがきれいだと思った。
自分の前に畳一畳ほどの板が敷いてあった。そこに、慎重に載せた。すると、『ふらぬら』ぱちっとはじけたようになり、朝顔のつぼみを小さくしたようなものに形を変えた。
「それは『ほりふ』だ。それを指先で揉め。潰さぬように大事に揉むのだぞ」
言われたように揉んでいると、『ほりふ』から蔓のような、触手のようなものが生え始めた。思わず三太は手を離した。
「揉み続けろ。かまってやらないと、寂しくて死んでしまうぞ」
死、という言葉を聞いて、また三太は手を伸ばした。コンニャクのような感触のそれを揉んでいると、『ほりふ』が触手をひらひら動かして喜んでいるような気がした。そして、触手は伸びていき、伸びた先にまた蕾のように『ほりふ』が生まれた。
「そら、そっちのやつも揉んでやれ。そっちもだ。まんべんなくやるのだ」
『ほりふ』はあちらにもこちらにも生えてきて、三太は忙しくなった。そのうち、『ほりふ』がもぞもぞ動き出し、中から光の花弁を持った、赤ん坊の掌のような大きさの花の形をしたものが現れ始め、それは板の上を離れ、空間に浮かび上がった。
「捕まえんでもいい」
思わず手を出しかかった三太は、そう叱られた。
宙に浮かび上がった花の花弁は、そのうち笠のような形になり、その下から足が生えてきて、
「クラゲだ」
増えた『ほりふ』からは、次々に花が咲き、宙に浮かび、クラゲになった。
「さぼるな」
また、三太は叱られた。なるほど、空中からは雪のように『ふらぬら』が降ってくるのだった。慌てると、手からこぼれてしまう。
「無駄にするな。ひとつでも多くクラゲに揉み上げるのだ」
「家に帰りたい」
「なに?」
「父さん、母さんのいるところに戻りたい」
 男は、ひどく残忍な薄ら笑いを浮かべた。
「お前の親父はこの俺だ。母はおらん」
「ちがう」
 殴られた。
「お前はずっとここにいたと思え。これからもずっとここにいるのだ。殺されたくなかったら、『ふらぬら』を捕まえ、『ほりふ』を揉んでクラゲにするのだ」
目玉の表面にじわっと涙が浮かんだ。涙の表面に落ちてくる『ふらぬら』がきらきらと光りながら舞った。
男は、縄を持ってくると、三太の左足首に結わえ付けた。もう一方の端は、どこかに結びつけられたようだ。 「逃がさんからな。小便に行く時も、繋がれたままだ」
男は、ものすごい目で三太を睨みつけていたが、めそめそと泣き続けているのを見て急に優しい声で言った。
「まあ、泣くな。一生懸命クラゲを作れば、そのうちいいこともある。万、いや一〇万作った帰してやろう」
万が一瞬で一〇万に訂正されたところが、いかにも嘘くさかったが、でも、それこそ万に一つの望みができたような気がした。男の言う通り「そのうちいいこともある」。
三太は掌に載った『ふらぬら』を台の上に、大事に載せ、揉み始めた。『ふらぬら』は素直に反応し、『ほりふ』に姿を変え、触手を伸ばし始めた。
男は浮かび上がったクラゲを透明な袋に入れた。入れれば入れるほど袋は膨らみ、やがて男自身の背と同じぐらいになった。それくらいになると、クラゲの浮力で男の身体まで浮き上がりそうになった。すると、男は縄で袋の口を縛り、どこかに結びつけて、どこにも漂っていかないようにした。
目が馴れてくると、『ふらぬら』は雪のように降ってくるのがわかった。大部分は下へ落ちてしまうのだ。こうしてみると、男が言った万とか十万とかいうのも、できないことではないかもしれない。
三太は忙しくなった。慌てると取り落としてしまう、潰してしまう。やわやわと、そして素早く手を動かす。三太が失敗するたびに、
「馬鹿め」「うつけめ」
男の罵声が飛んだ。
だが、力の入れ方のコツのようなものがわかってくると、一時に七つも八つも処理することができるようになってきた。そうなると、面白くなってくる。
『ふらぬら』から『ほりふ』に変態した後、揉み方によっては、いきなりぱっと四方八方に触手を開くことがあるのだった。ある時は、夜空に広がる花火のよう、ある時は雨に濡れた蜘蛛の巣みたいで綺麗だった。開いた先では、そこから新たに『ほりふ』が生じ、さらに触手を伸ばすこともあれば、花が開いてクラゲへの変態を始めることもあった。
そうなってくると、クラゲを集める男も中々忙しかった。
「ほいっ、ほいっ」
まるで自分を元気づけるように、そんな奇声を発しながら、空中から果物でももぎ取るようにクラゲを収穫し、袋に収めた。
「うひひひ」
嬉しそうに笑いを漏らしたが、急に引き締めるように、
「こんなんじゃ、まだまだだ」
と苦そうな顔をするのだった。
三太は、なぜ男がそんなにクラゲを欲しがるのか、わからなかった。聞きたくもあったが、また殴られたり、罵られたりするのが怖かった。
男は袋がその背丈ほどにも膨れ上がると、袋の口を紐で縛って、「一丁上がり」と呟いた。そして、にまにまと笑ったが、急に
「まだ、たったのひとつだ」
と引き締めるところは前と変わらなかった。
「まだ、初日だから仕方がないが、前の小僧はもっともっと稼いだのだからな」
前の小僧。三太が来る前にも、こんな仕事をやらされていた子供があったのだろうか。どんな子供だったのだろうか。今は、なぜいないのだろう。どこへ行ったんだろう。しかし、これも訊くに訊けなかった。
男は、あぐらをかいてしばらくキセルで煙草を吸っていたが、立ち上がると、ふいとどこかへ消えてしまった。村芝居の役者が舞台の袖へ消えるように、ギヤマン色のあるところから消えたのだ。
三太がどきどきして見守っていると、やはり同じ辺りから現れた。袖から舞台へ役者が出てくるようだった。こんどは、手に桶を持っていた。あの辺りに目には見えないが出入り口があるのだろうと三太は考えた。
桶の中には、どろどろした粥が入っていた。茶色っぽくて、ところどころ赤や黄色の粒が混じっていた。嫌な臭いがした。男は椀に粥をよそうと、
「食え」
と三太の目の前に突き出した
むっと湯気が三太の鼻孔を襲った。それだけでクシャミが出た。とても食い物の匂いとは思えなかった。
「食わぬと死んでしまうぞ」
そうまで言われて、やっといやいや箸を取った。男は自分の椀によそうとがつがつとものすごい勢いで食い始めた。まずそうでもなかったが、うまそうでもなかった。それこそ、食わぬと死んでしまう、と信じているようだった。
三太はやっとの思いで一杯食べた。男は、桶の中の粥をあらかた平らげていた。食ってしまうと、自分と三太の箸と茶碗を桶に放り込んで手に提げ、またどこかへ消えた。
確かにあのあたりに出入り口がある、と三太は思った。かすかに、逃げだそう、というつぶやきが心の底に聞こえた。だが、そう簡単ではない、とも思った。十万、クラゲを作れば家へ帰してくれるのだ、そう思おうとした。その途端、あの男にどこか狡猾そうな表情が浮かぶのを思い出した。
飯を食った後は、再びクラゲ作りが続いた。だんだん器用になってきたが、今度はその単調さが耐えがたくなってきた。時には『ほりふ』が閃光のように触手を広げて、男までもを驚かすことがあった。それは美しくはあったが、男はいい顔をしなかった。あまり広がりすぎても却って揉みの作業がやりにくくなって能率が落ちるというのである。
いったい、いつまで続ければいいのか、見当がつかなかった。
疲れたと訴えても、まだまだ、という返事が返ってくるだけだった。そのくせ、男の声にも疲れが現れ始めているのだった。明らかに、男もやめたがっていた。だが、三太に休ませないために、男も休まないでいるという感じがした。
もとの世界ではお百姓はお日様と共に働き始めて、日が暮れると家へ帰っていた。帰った後も夜なべ仕事が待っているにせよ、お日様の位置というものが自分が長い一日のどこら辺を歩いているのか教えてくれるのだった。 ここには、お日様がない。海の底には、お日様は指さないのだろうか。ギヤマン色の周囲は色を変えなかった。明るくも暗くもならなかった。
だんだん、腕がくたびれてきて、『ふらぬら』を取り落とすことの方が多くなった。うっかりして、折角育った『ほりふ』を潰したりした。
男は、もう叱るのも面倒になったか、ときどき、ちゃんとやれよ、とこちらを振り向きもしないで呟くように言うだけだった。
そして、三太に小言を言っているのかと思うと、こんなことをブツブツ言っていた。
「こんな仕事は、いやだいやだいやだ。俺は町へ行きたいんだ。町に行けばいい仕事があるかどうかわからねえ。でも、ここにいるよりはマシだ。こんなところは、いやだいやだいやだ」
ついに男は、ごろりと転がった。ふてくされているようだった。何に対してふてくされているのか、わからなかった。
その時、先ほど男が飯を取りに消えていったあたりから、不意と人間が立ち現れた。三太は、初め大きなカニが現れたのかと思った。だがそれは人間の顔であった。その下には、胴体があって陣羽織のようなものを着て、ぴかぴか緑色に光る袴をはいていた。
ふてくされていた男は、バネのようにはねかえって、ぴんと立ち上がった。
「こ、これは旦那、ご苦労様でございます」
男は、腰をかがめ揉み手をしながら、飴のようにとろけた顔で迎えた。
「来たくもないが来ないわけにも行かないからな」
カニ男は無愛想に答えた。へへへ、と男は愛想笑いをした。
「できてるか」
「へえ、これだけ」
男はクラゲの入った袋を指し示した。ふん、というとカニ男は袋の口から中を覗いた。
「小さくはないか」
「でも、質はようござんすよ」
「また、新しい子供か」
 カニ男は三太の方を見て言った。
「そう、新しいのばかり連れてきては、なかなか仕事が身につかんではないか」
「いえ、今度のヤツは出来がいいようで。大事に使ってやろうと思います」
「だいたい、お前にこらえ性がないのがいけない。隣のヤツなんか、五人も六人も子供を使って、どんどん作っているぞ」
「え、お言葉ですが、そう大勢いると、なかなか目が届きませんで、どうしても質が悪くなります。結局旦那にご迷惑をお掛けすることになりやす。やはり、あっしのように一人に絞った方が」
「悪い癖を出すなよ」
「へへへ、旦那、お人が悪い」
それから、彼らは交渉に入った。クラゲの売り渡し価格に関する哄笑である。
「まあ、一袋一〇銭だな」
「ご冗談でしょう。二〇銭はいただかないと」
などと、うにょうにょと話し合っていたが、結局折れ合って、カニ男が銭を渡して、「おい」と声をかけると出入り口からオコゼのような男が出てきて、クラゲの袋を集めて、また出ていった。カニ男は、その後から威風堂々と威張りくさって出ていった。
「今日はもうやめだ」
カニ男を見送った男はそう言うと、また先ほどと同じような粥の入った桶を持ってきて、
「食え」
と言った。
「明日からは、こういう用事もお前にやらせるからな」
働いたせいか、慣れたせいか、三太はお代わりまでした。そうして味はよくわからなかったものの、満腹を感じた。
今度は、三太の頭の上から、大きな布をかぶせると
「寝ろ」
と言った。三太が布の端から頭を出してみていると、男は大きな徳利を持ってきて、酒を飲み始めた。三太が見ているのに気づくと、
「寝ろ。頭を引っ込めろ」
と、恐ろしい顔で言った。

布は、びろびろとしていて、何で出来ているのかわからないが、頭からかぶると、あたりは真っ暗闇になった。
時々、「ごおおおう」という男の声が聞こえた。何かを叫んでいるのか、欠伸なのか、鼾なのか、げっぷなのかわからなかったが、三太の背骨を揺すぶるように恐ろしかった。
いつ帰れるのだろう、と思った。不安なことを考えながら、暗闇の中で目が冴えているのはかなわなかった。
男が眠ってしまったら逃げだそう、と考えた。そのうち、彼も本当に鼾をかき始めるだろう。まず、足首に結ばれた縄をほどかなければ。
先ほどは、ずいぶん固く結ばれたと思っていたが、あの後、色々動き回ったせいか、案外簡単にはずれた。あとは、時を見計らうことだ。しかし。
・・・家までの道がわかるだろうか。どうやって、ここまできたのだろう。また、男が途中で目を覚まして追いかけてきたらどうしよう。
その時、「逃げ出せ、逃げ出せ、ヤツは眠ったぞ」という小さな声が聞こえた。子供の声のようだった。耳の中で鳴っているように思えた。次に右脇で聞こえた。それから、足首のあたりで聞こえた。
三太が声の方を振り返ってみると、暗闇の中でほわっと青白く光っている丸いものが見えた。
クラゲだった。男に捕まらずにいたのだろうか。
「あの男は悪い癖がある。よそのクラゲ屋が子供を何人も使って稼いでいるのに、あいつが稼げないのも、この悪い癖のためだ」
とクラゲは言った。
「前の子供もそうだった。子供の肉が好きなのだ。こうして、目くらましの布をお前にかぶせているのも、お前の寝姿が目に毒だからだ。こうしておかないと、涎が垂れてたまらぬのだ。何日か、しばらくは働かせているが、だんだん我慢できなくなる。そうすると、目を血走らせて布を剥ぎ、尻にかじりつく。尻の肉から食っていって、最後は骨までカリカリと囓って跡形もなくなってしまう。そこで、ようやく我に返る。子供を食ってしまったことを悔いながら、また子供を攫いに出掛ける。お前のように、真っ昼間にぼんやりしている子供が攫いやすい。夢の隙間に連れ込んで、引っ張ってきてしまうのだ。
逃げろ。あの出入り口はだいたいわかるだろう。あそこへ飛び込め。あとは一散に走れ。振り向くな。振り向くとつかまる。今まで逃げた子供は大抵、振り向いてしまった。すると、夢の淵に落っこちてしまう。そして、食べられてしまう」
三太は跳ね起きた。布が頭や足に絡みついて、どこが出口やらわからなかった。何度も足を滑らせて転んだようだった。これでは、男が目を覚ましてしまう。焦ってもがいていると、前にクラゲが光っていた。
「大丈夫だ。私を目指して進んでおいで」
クラゲの方へ手を伸ばすと、抵抗もなく前へ進むことが出来た。三太はまだ尋常に入る前、池に落ちたことを不意に思い出した。水底の藻が手足に絡みついて動けなくなったのに、なんの拍子にかふわっと身体が浮いて、それで大人達に助けられたのだ。
もう、男は目を覚ましただろうか。三太がいないことに気づいただろうか。今自分はどの辺にいて、あとどれくらいで家に戻れるのだろうか。
急にクラゲの光が強くなった。光がトゲのように目に刺さった。あたりがぼんやりして、暗いのか明るいのかわからなくなった。
「これが、夢の境だよ」
誰の声かわからなかった。クラゲの声かもしれないし、自分の声かもしれなかった。

気づいてみると、目の前に庭の木立が見えた。もとの部屋だった。一本の木は、さんせう太夫から逃れることに成功し、都で出世して、母を迎えに来た弟の厨子王役だった。もう一本の木は母役で、盲いていた。あそこへ行く前に見ていた芝居だった。
ぎゃっ、という声が廊下で聞こえた。ついで、ばたばたと母屋の方に走っていく足音が響き、
「坊ちゃまが、三太坊ちゃまが戻っておられます」
という女中の慌てた金切り声が聞こえた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

文豪堂

Author:文豪堂
いらっしゃいませ。中川善史(自称社長)と金井哲夫(自称編集局長)が2人でしこしこ書いているふざけた電子書籍本を販売する「蕪」式会社文豪堂書店です。(社名は予告なく変更することがあります) (なおこれは個人の感想です)(効能を保証するものではありません)(おだてると調子に乗ります)

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR