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中川社長のショートストーリー『病床六万尺』③

社長1 がーーーーんんん!と映画やドラマだったら、ピアノの一番上から一番下までの鍵を使ってフォルテシモで思いっきり響かせる所だが、そういうことはなかった。目の前が真っ白にも真っ黒にも真っ青にもピンク色にもならなかった。
 走馬灯が頭のまわりでパカパカ走り回るという事もなく、人生の初めから終わりまでの場面が一瞬のうちに甦るという事もなく、雲がふたつに割れてそのあいだから天使がラッパを吹きながら舞い降りてくるという事もなく、西方浄土から阿弥陀様ご一行が押し寄せるという事もなかった。(みなさん、あんなの嘘っぱちでっせ) それまでの光景がそれまでのように、どうってことなく、のんべんだらりと続いているだけである。「死」ということも頭に浮かんだが、
「まあ、そういうこともあるだろうねえ」
と思っただけだった。べつに悟っているわけではない。まあ、そういうものなんだ、としか言いようがない。
 たいていの人は、離れがたい家族があったり、どうしてもやり遂げたい仕事があったりするんだろうが、私の場合、幸か不幸か、そういうものもない。甚だ手離れがいいのである。なんか、あっけないのである。
 恐くないわけではないが、そうなったらそうなったで仕方がないという気がするのである。
 なんとなく、入院以来今日まで頭がボーッとしている。ただでさえ、はっきりしていない頭なのであるが、この「ぼー」があるいは、ショックアブソーバの役割をしているのかもなあ、と思ったりもする。やはり、それなりにショックを受けてるのかねえ。この辺、自分でもよくわからない。ショック、というより、しょつくぅ~、といった程度であろうか。
 それから、1,2日放っておかれたような気がする。もしかすると、胃カメラの前だったかもしれない。断食していた日もあった。
 いやいや、そんなはずないか。胃カメラもやらずに宣告して置いて、あとから、「ごめん、ごめん、さっきのウソ」というのもおかしい。普通に宣告するより数倍意地悪である。この辺、周辺の人の方がよくわかっているかもしれない。
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