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金井哲夫の入院日記 その1 「何を食べましたか?」

入院日記1
6月末の土曜日の夜、急に激しい腹痛に襲われ、ボクは生まれて初めて救急車で病院に運ばれることになった。

救急車が到着したので、待たせちゃ悪いと、ボクは歩いて家の外に出た。救急隊員がストレッチャーをもって近づいてきたが、あまり大げさなのは嫌だし、ご近所さんに見られたら恥ずかしいので「歩けます」と断った。でも、「念のため寝てください」と言われストレチャーに乗せられた。これまた初めての経験だ。ガラゴロとやたら振動する。星ひとつないぼんやりとした闇が広がる空がぐるぐる回る。そして体が跳び上がるような衝撃と共に救急車のお尻に突っ込まれた。

救急車に乗ると、あれこれ質問される。腹痛ということで、当然ながら「何を食べましたか?」と聞かれた。土曜日はボクが夕食係で、ちょいとごちそうを作ることになっている。そのころ、ボクは揚げ物に凝っていた。なかでも鳥の唐揚げが大好物なので、何度も挑戦しているのだけど、なかなかカラッと理想の形に揚がらない。油をケチって古いヤツを使ったり、いっぱい食べたいものだから、欲張ってたくさん揚げようとするから油が汚れて、どうしてももったりべっちょりする。鍋もガスコンロも古いし、温度調節がうまくいかない。うまくできないと悔しいのでまたやる。

そのうち鳥の唐揚げばかりでは健康によろしくないと、魚のフライに切り替えた。揚げ物に変わりはないが、魚のほうがヘルシーな雰囲気がある。とういわけで、その日のメニューはフィッシュアンドチップスと決まった。しかし、素材が変わってもその他の条件は変わらないため、衣や油の温度などの研究はしてみたものの、やっぱりべっちょりしたものが出来上がってしまった。

何を食べたかと隊員に聞かれたボクは、普段なら格好を付けて、さらっと一般的な食事をした風に相手の心理を誘導するような言い方をするところを、命にに関わることなので、このときばかりは正直に、「魚のフライとポテトのフライ」と答えた。さすがに、出来損ないであることは隠した。隊員がそれを書き取っている最中に思い出し、「あ、サザエの壺焼きも食べました」と追加した。どうもこいつに当たったのではないかと、そのとき感じた。最初に食べた1個は火の通りが悪く半生だった。隊員が「サザエノツボヤキ」と小さく復唱しながら書き取る。しかも3つ食べたのだが、数量まで言わなかった。やっぱりまだ体裁を気にする自分が横たわっている。

やがて窓のない救急車で前後左右上下に揺られながら病院に到着し、救急診療室に寝かされた。若いイケメンの当直医がやって来て、ナースの話を聞き、ボクに向かって「何を食べました?」と聞いた。さっき言ったの伝わってないのかよ、と痛いお腹を押さえながらちょっと苛立ったけど、ここでも正直に話した。

「サザエの壺焼きと、魚のフライ、ポテトのフライ……」

先生がカルテに書き取る。その直後に思い出した。
「あ、オニオンリングフライも食べました」

レントゲンとCTを撮って、1時間ほど点滴をしていたら痛みが治まってきた。ドクターは「胃がずいぶん腫れてました」と話してくれた。胃腸炎か? だがとくに診断はなく、もう帰っていいと言われ、よかったよかったと安心して女房とタクシーで家に帰った。

しかし、ベットに戻ってしばらくすると、また痛み始めた。今度もまた激痛だ。ちょっと我慢すれば、さっきのように治まるかと思ったが、どうにも痛い。脂汗が出る。疲れて眠っている女房を起こすのは忍びなかったけど、叩き起こして再びタクシーで病院に連れて行ってもらった。

さっきのイケメン当直医は不思議な顔をしたが、よくわからないから(とは明言しなかったものの)入院しましょうということになった。

かくして、ボクはほぼ生まれて初めて、本格的な入院ってやつをすることになった。翌日、胃カメラともう一回CTとエコーで詳しく調べた結果、胃はなんともなく、胆石による急性胆嚢炎だと判明した。長年、鳥の唐揚げなどでせっせとコレステロールを溜め込んだご褒美に、大きな胆石が胆嚢の中にごろごろと詰め込まれていたのだ。炎症を起こした直接の原因は、油の取り過ぎで胆嚢がびっくりして「石が暴れた」ことだそうだ。今まで生きた中で、医者の説明にこれほど納得できたことはない。

病室のベッドに横になり、うつらうつらし始めたときにまた思い出したのだけど、食事の後、テレビを視ながら一人でポテトチップスを一袋食べていたのだった。油祭りだ。

つづく
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