金井哲夫の入院日記 その5「点滴がめちゃくちゃ下手だけど陽気な看護師さん」

入院の間、何度も注射針を刺された。まずは採血。ボクの腕は血管が出にくくて、針を刺しにくいらしい。他の病院でも、採血のときはいつも看護師さんを戸惑わせてしまう。でも、「やりにくいでしょ」とどの看護師さんに聞いても、そこはプロのプライドなのか、「ぜんぜんそんなことないです」と言い切る。でもその言い方が、ちょっと慌てた様子を含んでいて、漫画で描けば、汗がピュッピュと頭から飛び出てる感じ。
でもやっぱりボクの腕は厄介で、一度針を刺して血が出ず、もう一度別の場所に刺すなんてことがよくある。採血が終わると点滴。この入院では、なかなか針が血管に入らず難儀した。仕方なく手の甲にしたり、肘の近くにしたり。どこに入れてもらってもいいのだけど、腕が曲がらなくなってご飯を食べるのに苦労したこともあった。
この病院は、看護師さんがみんな陽気で明るく、とっても優しい。中でもボクの担当になった若い女性の看護師さんは、ゲロゲロじいさんにも、少年にも、青年にも、その他の普通のおじさんにも、態度を変えることなく明るく陽気に対応していた。若いのに立派なことだと感心した。
だがその娘さんは、ひとつ弱点があった。注射が下手なのだ。それがボクのような面倒な右腕に挑まなければならくなって、ひと騒ぎとなった。まずはいつもどおり「ちょっとチクッとしますよー」と針を刺した。ちくっとじゃなかった。グサっときた。薬がちゃんと落ちるかどうか確かめている間に、針を刺した先あたりがぷっくり膨らみ出した。「ああっ」と看護師さん。慌てて針を抜く。
「すいません、もう一度やります」と、また血管を探り、「よし、ここだ」と決めて針を刺した。気合が入った看護師さんは、「えい、うーん」と声が出る。以前にも増してグサグサとくる。非常に痛い。だが、そこも失敗だった。それから数回グサグサ刺して、5つぐらい無駄な穴が空いただろうか。彼女は意を決して言った。
「これでダメならベテランさんを呼んできます。もう一度だけ、やらせてください」
最初からベテランさんを呼んで欲しかったが、「痛いからダメ」なんて大人気ないことは言えない。とってもいい子なので、注射もうまい看護師さんに成長してもらおうと、ボクは練習台になる覚悟を決めた。
だが、応援虚しく最後の1回も鉱脈に当たらず、ベテランさんの出番となった。やってきたのは、見るからにベテランそうな男性看護師だった。彼もボクの腕を指で探る。さすがにベテランだけあって、じつにソフトに慎重に探っていった。そして、ここだと決めたところに針を打つ。何度聞いたか知れない「少しチクっとしますよ」の合言葉とともに針が入る。しかし痛くない! ベテランが適切な位置に針を刺すと、ぜんぜん痛くない。さすがだと感心した。
だけど少ししてベテランさん、「あれー?」と言った。針は刺さったものの、血が出てこないのだ。「すいません、もう一度やらせてください」と、新たな無駄穴を増やして、別の場所に針を打つ。これでやっと成功した。ここまで来るのに、どんだけ針を無駄にしただろう。ボクの腕にも、たくさん穴が空いた。散弾銃で撃たれたキャラクターが水を飲むと体中の穴から噴水のように水がピューっと吹き出すアメリカのテレビアニメが昔あったけど、おそらくボクも水を飲んだらそうなったに違いない。
そんなこんなで、ボクの緊急入院の1週間は楽しく過ぎたのでありました。
さらにつづく
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