社長の業務 ナンセンス・ファンタジー『毒ずきんちゃん その9 ローリング・サンダー・ソバット・バックブレイキング・・・墨染めの衣のこと』

姫「ご主人様の必殺技が決まりましたわ!」
毒「オートモ王子、敵ながらあっぱれな戦いぶりだったぞ」
姫「あたら若い命を・・・魔女の手下になどなったばかりに・・・(すすり泣く)」
毒「せめて亡骸は手厚く葬ってやろう」
その時、「ちょっと待て」という声がしました。オートモ王子の声です。
オ「僕はまだ生きている!」
毒「いまだに、オートモ王子の声が聞こえるようだ」
オ「だから聞こえているの!」
毒「強いやつだったが、あたしのウルトラ・バックブリーカー・エンサイクロペディア・カメハメ波・マルセイユ風の前にはひとたまりもなかった。勇者として讃えてやろう」
姫「さっそく銅像を作らせましょう。たしか、オートモ王子は、ひょっとこに似た顔でしたわね」
毒「お多福に似ていたんじゃなかったっけ」
オ「おい、僕らはまだ戦っていないじゃないか!勝手に話を進めやがって。第一、技の名前がさっきと違っているし」
毒「怒るな。済んだことだし」
オ「済んでなーい!だいたい、戦闘シーンというのは物語の山場なのに、こんないい加減に済まされてたまるか!」
毒「山場なら、まだマクベスとの戦いが控えているし」
そこへ、マクベスがずいと出てきて、
マ「ふふふ、俺はカエル王子やオートモ王子のようにはいかんぞ」
オートモ王子は慌てて、
オ「ちょっと待った。まだ、僕の出番が・・・」
マ「力と陰謀で王にまでのし上がった俺様だ。毒ずきん、この剣を受けてみるかね」
オ「あの、僕が先なんだけど・・・」
マ「ああ、オートモ王子の声が聞こえるようだ」
オ「だから聞こえてるって」
マ「仇はきっと取ってやるぞ。そして、勇者として讃えてやろうではないか。銅像を作ってやろう。たしか、彼はひょっとこに似た顔であったな」
それを聞いて眠り姫は、
姫「あら、珍しく意見が一致しましたわね。善は急げですわ・・・ミケルアンジェロ! これへ」
と眠り姫が呼んだのは、王室付きの彫刻家でした。
ミ「おん前に」
姫「ミケルアンジェロ、オートモ王子の銅像を作るのです。王室彫刻家の名に恥じないような像を。ひょっとこ似にね」
毒「お多福似だと思うがなあ」
ミ「そうおっしゃいましても、私は、その方の顔を存じないのでございますが」
姫「困りましたわね」
姫と彫刻家が思案していると、横からオートモ王子が、
オ「だから僕はここにいるんだって!」
それを見て、眠り姫はぽんと手を叩いて、
姫「そういえばそうでしたわ。ミケルアンジェロ、この方が当人です。さっそく、あなたのアトリエに連れて行ってモデルにしなさい」
オ「いや、彫刻なんかどうでもいいから、戦いの方を・・・」
と嫌がるオートモ王子でしたが、ミケルアンジェロは普段から鑿や槌や重たい材料を扱い馴れているものですから、腕力が強いの強くないの、
姫「丁寧に作るのですよ。10年かかっても20年かかっても許します」
こうしてオートモ王子はアトリエに幽閉されてしまいました。
毒「これで二丁上がり」
姫「影の薄い方でしたわ、お気の毒に」
毒ずきんちゃんとマクベスは、向かい合って立って睨み合っていました。そして互いの呼吸を計っているようでした。もう、すでに随分長い時が過ぎています。
やがて青白い顔の中の目が光ったかと思うと、マクベスがすらりと剣を抜きました。ですが、毒ずきんちゃんはじっと動かずにマクベスを見つめるだけです。
マ「どうした、抜かぬのか」
マクベスは正眼に構え、じりっじりっと間合いを詰めてきます。
マ「剣を抜け」
と再びマクベスは言いました。ですが、毒ずきんちゃんは、それを無視したかのように動きません。マクベスは少し考えていましたが、
マ「こやつ、居合いを使うと見える。俺が斬りかかったところを抜き打ちにするつもりだな」
毒「居合いなど使わぬ」
と、やっと毒ずきんちゃんが口を開きました。(このあたり、日本の時代劇が混入していることをご了承下さい)
マ「では、どうして剣を抜かぬのだ」
毒「知りたいか」
マ「申してみよ」
毒「剣を持っていないのだ」
マクベスが、がくっと軽くコケそうになりました。
マ「なぜ持たぬ」
毒「元から持っていない」
マ「では貸そうか」
毒「いらない。どうせあったところで、七歳の女の子に振り回せるものではない」
マ「では、ほかの飛び道具でも隠しておるのだな」
毒「何も持っていない」
マ「貴様、この俺様に丸腰で立ち向かおうというのか」
毒「そういうことになる」
マ「俺が貴様を斬ることなどたやすいぞ」
毒「そうかもしれんな」
マ「この剣を振り下ろすだけで貴様は真っ二つだ」
毒「うむ」
マ「いいのか」
毒「良くはないが、そうなるかもしれん」
マ「なぜ、そんなに落ち着いている」
毒「別に落ち着いているわけではない」
マ「斬られると痛いぞ」
毒「そうだろう」
マ「血が出るぞ」
毒「当然だ」
マ「首が飛んだり、腕が転がったりするかも、だぞ」
毒「まあな」
マ「言っておくが、俺は血も涙もない男だ。七歳の女の子でも平気で殺すぞ」
毒「知っている。あたしを迷路の牢に放り込んだんだからな」
マ「そ、そうだったな」
毒「忘れやしないさ」
マ「言っとくけど逃げるなら今のうちだぞ」
毒「逃げない」
マ「ちょっと目をつぶるから、その隙に逃げられるかもしれんぞ」
毒「だから、逃げないって」
マ「もう一度言っておくが、俺は今まで大勢の人間を殺してきたんだからな」
毒「聞いている」
マ「その中には、子供だっているんだからな」
毒「そうかもしれん」
マ「戦争となれば、もう男は殺し女は犯し、子供は殺すか売り飛ばす。俺は、そういう世界で武勲を立てのし上がってきた男なのだぞ」
毒「わかっている」
マ「逃げたくなったか」
毒「逃げない」
マ「戦場は狂気だ。人が狂うのではない、狂気が人の影をまとうのだ。いったいどれだけの血を流したことか。今でも、夜になると枕元に俺が殺したもの共が現れる。俺は悪夢の中で剣を振り、そいつらの首を刎ねる。だが、俺が殺した人間など幾ら何人いるかわからない、繰り返し繰り返し現れてきては、恨みがましい目で俺を見つめる・・・呪われた人生だ・・・」
そこまで言うとマクベスは剣を捨てて、下を向いて顔を覆ってしまいました。そして、魔女を振り向いて、
マ「魔女様・・・お許し下さい。私は出家します」
魔「はあ?」
マ「私には、この子は斬れません。この子の淡々とした態度を見ていたら、初めて人を斬ることが恐くなってきました・・・私は、私が殺めた者達の菩提を弔うため、回国行脚の旅に出ます・・・頓証菩提、南無阿弥陀仏・・・生者必滅会者定離・・・旅の衣は墨染めの・・・」
何やら謡のようなものを歌いながら部屋から出て行ってしまいました。
魔「あいつ仏教徒だったのか?」
姫「まあ、この場面ではアーメンよりも南無阿弥陀仏の方が似合いますわね」
一同、白けかえって黙っておりましたが、急に魔女の目が赤い光を放ち、
魔「おのれ、毒ずきん、わしの家来を三人まで倒しおって。こうなったら、この国を大混乱に陥れてやる」
と叫ぶや、ホウキに跨って窓から飛び出し、
魔「この国にポコペン病を蔓延させてやる!」
と呪いを掛けました。王様が言葉の最後にポコペンと言わずにいられなくなった恐ろしいあの病気です。
毒ずきんちゃんと眠り姫は窓から魔女が飛び回っているのを眺めながら、
毒「ポコペン病だってさ・・・がちょーん」
姫「ご主人様、がちょーんって何ですの、はらほれひれはれ」
毒「がちょーんなんて言ったか? がちょーん。お前こそ、はらほれひれはれって言ったぞ、がちょーん」
姫「あら、わたくしがそんなことを言うはずがございませんわ、はらほれひれはれ」
さて、いよいよ次回は最終回。魔女との対決やいかに。
(つづく)
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